タイでマラリア感染が過去最低水準に。国境地帯に残る課題

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マラリア感染者数は過去最低水準 2026年撲滅へ

タイ保健省と世界保健機関(WHO)の最新報告によると、2025年初頭(1〜3月期)に確認されたマラリア感染者は1417人で、前年同期より約39%減少しました。この減少傾向はここ数年続いており、国内の感染報告数は過去最低水準となっています。

タイ政府は2017年に「国家マラリア排除戦略(2017–2026)」を策定し、2026年までに「国内発生ゼロ」、2030年までに「WHO排除認定」を目指しています。WHOによると、77都県のうち46都県がすでに「マラリア清浄県」として認定されており、残る県でも感染例は局所的にとどまっています。

感染は国境地帯に集中 森林部や移動労働者がリスク

現在のマラリア感染は、全国的に見れば抑え込まれているものの、依然として国境地帯や山岳地帯に限られた発生が続いています。特にリスクが高いのは以下の地域です。

主な流行地域特徴
タイ西部(ターク県、メーホンソン県など)ミャンマー国境に近く、森林での感染が多い
東部(シーサケット県、ウボンラチャタニ県)カンボジアとの国境地帯、農業労働者の移動が多い
南部(ヤラ県、ナラティワート県)マレーシア国境沿いの丘陵地、季節的流行あり

感染の約8割を占めるのはビバックス型(Plasmodium vivax)で、重症化の恐れが高い熱帯熱マラリア(P. falciparum)は大幅に減少しています。ただ、国境を越える人の移動や森林伐採に伴う環境変化が感染の再拡大リスクとなっており、「最後の火種」として警戒されています。

「1−3−7戦略」 発生報告から1週間以内に封じ込め

タイがマラリア抑制に成功している背景には、独自の迅速報告制度「1−3−7戦略」があります。

  • 1日以内に 感染を報告
  • 3日以内に 疫学調査と感染源の特定
  • 7日以内に 対策(防蚊、殺虫剤散布、周辺住民検査)を実施

という仕組みで、感染の連鎖を迅速に断ち切ります。この制度はWHOが推奨するモデルケースとされ、近隣のラオスやカンボジアでも採用が広がっています。

さらに、タイ保健省は各県ごとにマラリアリスク層別化(stratification)を導入。
感染リスクが高い地域には重点的に人員と予算を配分し、すでに清浄化した地域では再侵入防止策を徹底しています。

地域連携とボランティアが支える「草の根の排除活動」

マラリア制圧の現場を支えているのは、地方の保健ボランティア(Village Health Volunteer)です。ボランティアは住民への啓発、蚊帳の配布、発熱者の迅速検査(RDT)を担い、感染が疑われた場合は即座に保健当局へ報告します。

また、グローバルファンド(Global Fund)やアメリカCDCの支援を受け、
国際機関・自治体・医療機関が連携して「移動する感染源」への監視を強化しています。国境検問所ではモバイル検査ユニットが設置され、出入国時のスクリーニング体制も整いつつあります。

気候変動が左右する感染リスク

近年の研究では、降雨量や気温上昇がマラリア発生率に影響することが明らかになっています。降水量が100ミリ増えると、熱帯値マラリア感染リスクが約15%上昇するとの報告もあり、地球温暖化が媒介蚊の生息環境を広げる懸念が指摘されています。

タイでは森林伐採や農地開発により、これまでマラリアの少なかった地域でも媒介蚊が生息する事例が増加。保健当局は「気候変動と環境破壊の両面でマラリアを監視する必要がある」としています。

排除目前の課題と展望

マラリア制圧に向けたタイの取り組みは、「公衆衛生体制と地域社会の協働」が成功の要因として高く評価されています。しかし、排除を達成した後も、気候変動・国際移動・医療格差といった新たな再発リスクが立ちはだかります。そのため、タイ保健当局は「排除は終わりではなく、再発防止と監視の始まり」と強調しています。

マラリアの感染経路・種類・症状・予防法

タイでも地域によってはマラリアの危険がある場所もあります。マラリアは、ハマダラカ(Anopheles mosquito)という蚊に刺されることで感染する病気で、発熱や頭痛、悪寒などの症状が出ます。世界では今も年間およそ60万人近くがマラリアで命を落としており、多くはアフリカ地域で発生しています。

タイでは、森林地帯や国境付近(特にミャンマーやカンボジアとの国境沿い)で感染することがありますが、バンコクなどの都市部では感染の心配はほとんどありません

感染の種類と症状

マラリアの原因となる原虫にはいくつか種類があります。タイや東南アジアで多いのは「熱帯熱マラリア」と「三日熱マラリア」です。

熱帯熱マラリアは38.5度以上の高熱が続き、放っておくと脳や腎臓に障害を起こすこともあります。三日熱マラリアは、48時間ごとに発熱と解熱を繰り返すのが特徴で、体の中に原虫が潜んで再発することもあります。

発熱のほか、頭痛・倦怠感・悪寒・下痢などの症状があり、風邪やデング熱と間違われることもあります。帰国後に発熱した場合は、必ず医師にタイなど熱帯地域を訪れたことを伝えてください

予防方法

マラリアには一般的なワクチン接種はありません(アフリカでは一部導入されていますが、東南アジアでは未実施です)。そのため、最も大切なのは蚊に刺されないことです。

蚊に刺されないための工夫

  • 夕方から明け方に屋外に出るときは、長袖・長ズボンを着用しましょう。
  • 虫よけスプレー(DEETやイカリジン配合)を使用します。
  • 地方では蚊帳やエアコンのある宿泊施設を利用することをお勧めします。

予防内服薬

流行地域に長期滞在する場合は、予防内服薬の使用を検討します。日本で処方できる薬は次の3種類です。

薬の名前服用回数特徴と注意点
メフロキン(メファキン/ラリアム)週1回旅行の1週間前から服用を始め、帰国後4週間続けます。タイ周辺では耐性がある地域もあります。
アトバコン/プログアニル(マラロン配合錠R)毎日副作用が少なく安心ですが、費用がやや高めです。帰国後も7日間服用を続けます。
ドキシサイクリン毎日安価で効果的ですが、妊婦や8歳未満の子どもには使えません。日焼けに注意が必要です。

以前はマラリア予防薬の代名詞的存在だったクロロキンという薬は、すでに東南アジアでは効かない地域が多く、予防には使われません。

発症したときの対応

マラリアは血液検査で簡単に確認できます。発症しても早期に治療すれば治る病気です。ただし放置すると重症化することがあります。

タイ滞在中に発熱した場合は、すぐに病院を受診してください。日本に帰国後に発症した場合も、「タイの山岳地帯や国境付近を訪れた」ことを必ず医師に伝えるようにしましょう。これが正しい診断と治療への第一歩です。

マラリアとデング熱の違い

タイでは、蚊が媒介する感染症への対策が不可欠です。しかし、同じ「蚊」が媒介する疾患でも、マラリアとデング熱ではその生態とリスク地域が大きく異なります。安全な旅行や生活を送るために、それぞれの特徴を理解しておきましょう。

比較ポイントマラリア(マラリア原虫)デング熱(デングウイルス)
媒介する蚊ハマダラ蚊(アノフェレス)ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ
主な活動時間夜間昼間(特に早朝と夕方)
主な感染地域山間部、森林地帯、国境地帯の農村部都市部、居住地域、観光地

デング熱は昼間に都市部で活動する蚊が媒介します。日中の外出時も、肌の露出を避け、虫よけスプレーを使用するなど、予防策を徹底することが重要です。マラリアは夜間に山間部や国境地帯の森林で活動する蚊が媒介します。これらの地域に立ち入る際は、夜間の虫よけ対策と、必要に応じて予防薬の服用を検討してください。

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