タイで注意が必要な肝炎(A・B・C・D・E型)の感染状況
タイではA型からE型までの肝炎が確認されており、それぞれ感染経路・流行パターン・対策が異なります。以前はB型・C型肝炎が「国民病」とも言われるほど蔓延していましたが、ワクチン普及と治療体制の強化により感染率は大幅に低下しました。タイ保健省は2030年までに肝炎による死亡を70%削減することを目標とするなど、さらなる対応を進めています。
ただ、その一方で、A型肝炎・E型肝炎など衛生環境に依存する型は、若年層で免疫力が低下していることで集団感染リスクが再び高まる兆候も見られます。
A型肝炎:衛生改善で感染減、しかし若年層で免疫低下
タイのA型肝炎は、かつて「風土病」に近い存在でしたが、現在は感染が減少しています。2024年に行われたチョンブリ県での抗体調査では、A型肝炎ウイルス(HAV)抗体の保有率が低下傾向にあることが判明する一方で、47歳以下では抗体を持たない層が半数を超えるとの報告がありました。このため、衛生環境の整った都市部ほど自然感染で免疫を得る機会が減り、その結果として若者の感染者が増えています。
B型肝炎:定期接種で大幅減少、キャリア率は2.5%前後に
タイのB型肝炎(HBV)はかつてアジアでもっとも深刻な感染症の一つでしたが、1992年に新生児への定期接種が始まって以降、感染率が劇的に低下しました。世界肝炎連合(Global Hepatitis Programme)の推計によると、現在のB型肝炎キャリア率は約2.56%。出生時のワクチン接種の普及により、母子感染ルートがほぼ遮断されつつあります。タイ北部チェンマイ大学の報告では、妊婦のHBsAg陽性率が2003年の6.1%から2022年には3.1%に半減しました。
一方で、成人層やワクチン未接種世代では慢性キャリアとして無症状で感染を持ち続ける人も多く、未診断・未治療例の掘り起こしが課題となっています。
C型肝炎:治療薬の普及で制御進むも「未検査感染者」が課題
C型肝炎(HCV)は、かつては輸血や注射針の使い回しによって広がった感染症です。ペチャブン県では過去に抗体陽性率15%という高水準を記録しましたが、現在ではウイルス保有率が0.5%未満にまで減少しています。これは、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の導入と、国が進める無料検査・治療支援政策の成果とされています。
しかし、C型肝炎は自覚症状が乏しく、感染者の多くが未検査のまま放置されているとみられており、全国推計では依然として30〜50万人が感染しているとみられ、検査および治療へのアクセス強化が求められています。
D型肝炎:B型キャリアへのW感染監視が課題
D型肝炎(HDV)はB型肝炎ウイルスを保有する人のみに感染し、重症化を引き起こすタイプです。タイではB型肝炎キャリア率の低下に伴い、D型肝炎の流行規模は限定的とみられています。今後は、HBVキャリアを対象としたスクリーニングとW感染の監視体制が課題となります。
E型肝炎:水や食品を介して散発発生、妊婦は重症化リスクも
E型肝炎(HEV)はA型と同じく汚染水や加熱不十分な食品が感染源となります。タイでは大規模流行は報告されていませんが、下水検体の3%からウイルスが検出されたとの研究もあり、衛生状態が不十分な地域では潜在的な感染リスクが残っています。
特に妊婦が感染すると重症化するケースがあり、保健当局は水道・下水インフラの改善と食品衛生教育を強化しています。
ウイルス性肝炎(A・B・C型)の感染経路・症状・予防法
タイでは衛生環境の違いから日本ではあまり見られない感染症に注意が必要です。ここでは、タイで感染リスクの高いA型、B型、E型肝炎について説明します。
A型肝炎
A型肝炎ウイルスは、ヒトの糞便で汚染された水や食品を口にすることで感染します。加熱が不十分な貝類(カキ、ムール貝、アサリなど)や生野菜、屋台の生食には特に注意が必要です。
潜伏期間は約30日(15〜50日)で、発熱、強い倦怠感、吐き気、食欲不振、黄疸、尿の濃色化などの症状が現れます。肝臓が腫れて強い痛みを伴うこともあります。特効薬はなく、安静にして回復を待つことになります。
成人が感染すると2〜3週間にわたり重い症状が続く場合がありますが、致死率は0.3〜0.5%程度とされています。
子どもの場合は軽症で済むことが多く、気づかないうちに感染が終わることもあります。一度感染すれば免疫がつき、再感染や慢性化はありません。
予防の基本は、生ものを避け、加熱した食品を食べることです。タイでは地域的な流行が起こることもあります。確実な予防法としてはA型肝炎ワクチンの接種が有効です。日本で使われているワクチン(Aimmugen®)は3回接種(初回、1カ月後、6カ月後)で完了します。接種部位の痛みや軽い発熱などの副反応がみられることがありますが、多くは軽度です。
B型肝炎
B型肝炎は血液や体液を介して感染します。主な感染経路は性交渉、注射針の共用、いれずみ、針治療などです。
潜伏期間は1〜6カ月で、倦怠感、食欲不振、発熱、黄疸などの症状が出ます。放置すると肝硬変や肝がんへ進行するおそれがあります。
予防法は、コンドームの使用やかみそり・歯ブラシの共用を避けること、そしてB型肝炎ワクチンの接種(初回、1カ月後、6カ月後の3回)です。
成人が感染した場合、約95%は自然に治りますが、約5%が慢性化します。まれに劇症化して死亡することもあるため、早期受診が大切です。
母子感染によって子どもが慢性化するケースもありますが、タイでは1992年から新生児への定期接種が行われており、母子感染対策は広く普及しています。現在のタイ人の慢性B型肝炎キャリア率はおよそ2〜3%(過去は8〜9%)です。日本でも2016年から乳児への定期接種が始まっています。
E型肝炎
E型肝炎ウイルスもA型と同じくヒトの糞便で汚染された水や食品を口にすることで感染します。加熱不十分な豚肉や内臓料理が感染源となることもあります。
一般的に慢性化はしませんが、免疫力が低下している人や臓器移植後の方では慢性化することがあります。また、一度感染すると一定の免疫が得られますが、再感染が起こるケースもあります。
致死率は0.5〜3%とされ、特に妊婦が妊娠後期に感染した場合は致死率が20%前後に上がることがあります。妊婦にとって最も注意すべき感染症の一つです。
治療は対症療法が中心で、特効薬はありません。ワクチンについては、中国で「Hecolin」というE型肝炎ワクチンが承認されていますが、日本やタイではまだ使用できません。
- A型肝炎:汚染水や生食が原因。ワクチンで予防できます。
- B型肝炎:血液・体液感染。ワクチン接種で防げます。
- E型肝炎:豚肉や内臓の加熱不足に注意。妊婦は特に要警戒。
【参考資料】感染経路と現状のまとめ
| 型 | 主な感染経路 | 現状(2025年時点) | 主な対策 |
|---|---|---|---|
| A型 | 汚染水・食品(経口) | 感染減少も若年層の免疫が低下 | 衛生教育・ワクチン |
| B型 | 血液・母子感染 | キャリア率約2.5%に低下 | 新生児定期接種・成人補完接種 |
| C型 | 血液・注射器 | 0.5%未満に減少 | 無料検査・DAA治療拡充 |
| D型 | B型肝炎W感染 | 流行規模は小さい | B型肝炎キャリア監視 |
| E型 | 水・食品 | 散発的感染 | 衛生改善・妊婦対策 |

