タイで注意したい感染症と予防方法

タイは一年を通じて温暖な気候に恵まれていますが、その反面、熱帯特有の感染症が発生しやすい環境でもあります。日本ではあまり見られない病気も多く、旅行者や長期滞在者にとって注意が必要です。代表的なものには、蚊を媒介とするデング熱や、食事や水を通じて感染するA型肝炎、そして死亡率がほぼ100%の狂犬病などがあります。さらに、地方によってはマラリアのリスクも存在します。これらの感染症は、予防接種や蚊よけ対策、衛生管理を徹底することで多くを防ぐことができます。滞在前に最新の感染情報を確認し、基本的な予防策を取ることが健康維持の第一歩です。

目次

タイの雨季はデング熱に注意しましょう

世界でもっとも人間の命を奪っている動物は「蚊」といわれています。蚊が媒介する感染症は数多くありますが、タイで特に注意したいのがデング熱です。マラリアは主に国境の森林地帯や山岳地帯で見られ、都市部での感染はほとんどありません。一方、デング熱はバンコクなど都市部で流行することが多いため、旅行者や在住者は特に注意が必要です。

症状は突然の高熱で始まります

デング熱は突然の高熱で始まり、激しい頭痛、目の奥の痛み、筋肉痛、関節痛、倦怠感などを伴います。発熱後に皮膚に発疹が出ることもありますが、症状には個人差があります。のどの痛みが少ない点が特徴とされますが、風邪と似た症状も多いため、自己判断せずに早めに医療機関を受診してください。

治療が遅れると「デング出血熱」や「重症デング」に進行し、出血やショック症状を起こすことがあります。適切な治療を受ければ死亡率は1%未満とされますが、油断は禁物です。

治療法ですが特効薬はありません。

現在、デング熱の特効薬はありません。治療は主に解熱や水分補給などの対症療法です。

注意したいのは、アスピリンやイブプロフェンなどの解熱剤を使わないことです。これらは血液を固まりにくくし、出血症状を悪化させる恐れがあります。代わりにパラセタモール(アセトアミノフェン)を使用しましょう

また、タイ滞在後に日本で発症するケースもあります。帰国後に高熱が出た場合は、「タイに滞在していた」ことを必ず医師に伝えてください。

蚊に刺されることで感染します。

デング熱は、ウイルスを持つネッタイシマカヒトスジシマカに刺されることで感染します。潜伏期間は3~14日(多くは5~7日)です。これらの蚊は昼間に活動し、屋内外の花瓶や植木鉢など、水がたまった場所で繁殖します。

予防接種は一般的には行われていないため、最も有効な対策は蚊に刺されないことです。明るい色の服を着る、長袖・長ズボンを着用する、蚊よけスプレーを使用する、水たまりを作らないといった日常的な対策を心がけましょう。

特に雨季は蚊の繁殖が盛んな時期です。ベランダや庭の花瓶・水槽・雨どいなどに水がたまらないようにすることが最大の予防になります。

再感染に注意

デングウイルスには4つの型があります。一度感染するとその型には免疫ができますが、別の型に感染すると重症化するリスクが高まります。過去に感染した経験がある方は、再び高熱が出たときには特に注意してください。

国境で蚊に刺された場合は マラリアを警戒してください

タイでも地域によってはマラリアの危険がある場所もあります。マラリアは、ハマダラカ(Anopheles mosquito)という蚊に刺されることで感染する病気で、発熱や頭痛、悪寒などの症状が出ます。世界では今も年間およそ60万人近くがマラリアで命を落としており、多くはアフリカ地域で発生しています。

タイでは、森林地帯や国境付近(特にミャンマーやカンボジアとの国境沿い)で感染することがありますが、バンコクなどの都市部では感染の心配はほとんどありません

感染の種類と症状

マラリアの原因となる原虫にはいくつか種類があります。タイや東南アジアで多いのは「熱帯熱マラリア」と「三日熱マラリア」です。

熱帯熱マラリアは38.5度以上の高熱が続き、放っておくと脳や腎臓に障害を起こすこともあります。三日熱マラリアは、48時間ごとに発熱と解熱を繰り返すのが特徴で、体の中に原虫が潜んで再発することもあります。

発熱のほか、頭痛・倦怠感・悪寒・下痢などの症状があり、風邪やデング熱と間違われることもあります。帰国後に発熱した場合は、必ず医師にタイなど熱帯地域を訪れたことを伝えてください

予防方法

マラリアには一般的なワクチン接種はありません(アフリカでは一部導入されていますが、東南アジアでは未実施です)。そのため、最も大切なのは蚊に刺されないことです。

蚊に刺されないための工夫

  • 夕方から明け方に屋外に出るときは、長袖・長ズボンを着用しましょう。
  • 虫よけスプレー(DEETやイカリジン配合)を使用します。
  • 地方では蚊帳やエアコンのある宿泊施設を利用することをお勧めします。

予防内服薬

流行地域に長期滞在する場合は、予防内服薬の使用を検討します。日本で処方できる薬は次の3種類です。

薬の名前服用回数特徴と注意点
メフロキン(メファキン/ラリアム)週1回旅行の1週間前から服用を始め、帰国後4週間続けます。タイ周辺では耐性がある地域もあります。
アトバコン/プログアニル(マラロン配合錠R)毎日副作用が少なく安心ですが、費用がやや高めです。帰国後も7日間服用を続けます。
ドキシサイクリン毎日安価で効果的ですが、妊婦や8歳未満の子どもには使えません。日焼けに注意が必要です。

以前はマラリア予防薬の代名詞的存在だったクロロキンという薬は、すでに東南アジアでは効かない地域が多く、予防には使われません。

発症したときの対応

マラリアは血液検査で簡単に確認できます。発症しても早期に治療すれば治る病気です。ただし放置すると重症化することがあります。

タイ滞在中に発熱した場合は、すぐに病院を受診してください。日本に帰国後に発症した場合も、「タイの山岳地帯や国境付近を訪れた」ことを必ず医師に伝えるようにしましょう。これが正しい診断と治療への第一歩です。

狂犬病は発症すればほぼ確実に命を落とす病気です

可愛い子犬や子猫でも、決して油断してはいけません。狂犬病ウイルスに感染すると、発症後の致死率はほぼ100%発症してから回復した例は世界でもほんのわずかで、実質的には「発症=死亡」と考えられています。

狂犬病の症状

狂犬病に感染した動物にかまれたり、傷口や粘膜を舐められたりしてウイルスが体内に入ると、1〜3カ月ほどの潜伏期間を経て発症します。最初は発熱、頭痛、倦怠感などの軽い症状ですが、進行すると水や風を怖がるようになり、けいれんや呼吸困難を起こして最終的に死亡します。

発症してからの治療法はありません。感染が疑われた時点での迅速な対応が命を救う唯一の方法です。

主な感染源

タイでは犬と猫が主な感染源です。狂犬病ウイルスは唾液の中に存在し、咬まれたり、傷口や粘膜に触れたりすることで感染します。健康な皮膚の上を舐められただけでは感染しませんが、傷がある部分を舐められると感染の危険があります

また、狂犬病の犬は凶暴になるイメージがありますが、おとなしい犬でも感染している場合があります。飼い犬だからといって油断せず、かまれた場合は必ず病院を受診しましょう。

咬まれたときの応急処置と治療

狂犬病ウイルスは石けんや消毒薬に弱いウイルスです。まず、流水と石けんで15分以上かけてしっかり洗い流すことが非常に重要です。その後、消毒し、できるだけ早く病院でワクチン接種を受けてください。

タイで一般的なワクチン接種スケジュールは、当日・3日後・7日後・14日後・30日後の5回です。医師の判断により、重症咬傷や顔・首など脳に近い部位を咬まれた場合には、免疫グロブリン(抗体注射)を併用します。

タイ保健省によると、毎年約30〜40万人が犬や猫にかまれてワクチンを接種しています。死亡例の多くは「ワクチンを接種しなかった」「途中でやめてしまった」ケースであり、5回すべて接種した人が死亡した例は報告されていません

予防方法

最も確実な予防法は、犬や猫にむやみに触らないことです。野良動物はもちろん、友人や知人から譲り受けた子犬や子猫にも注意が必要です。生後3カ月未満の動物はワクチン未接種のことが多いため、特に警戒してください。

お子さんがいる場合は、「かまれたり舐められたらすぐに大人に知らせる」ように教えておきましょうまた、長期滞在者や動物に接する機会の多い方は、あらかじめ予防接種(暴露前ワクチン)を受けておくと安心です。

タイで気をつけたいウイルス性肝炎

タイでは衛生環境の違いから日本ではあまり見られない感染症に注意が必要です。中でも肝臓に炎症を起こす「ウイルス性肝炎」は、感染経路や重症度が異なる5つのタイプ(A型・B型・C型・D型・E型)があります。ここでは、タイで感染リスクの高いA型、B型、E型肝炎について紹介します。

A型肝炎

A型肝炎ウイルスは、ヒトの糞便で汚染された水や食品を口にすることで感染します。加熱が不十分な貝類(カキ、ムール貝、アサリなど)や生野菜、屋台の生食には特に注意が必要です。

潜伏期間は約30日(15〜50日)で、発熱、強い倦怠感、吐き気、食欲不振、黄疸、尿の濃色化などの症状が現れます。肝臓が腫れて強い痛みを伴うこともあります。特効薬はなく、安静にして回復を待つことになります。

成人が感染すると2〜3週間にわたり重い症状が続く場合がありますが、致死率は0.3〜0.5%程度とされています。

子どもの場合は軽症で済むことが多く、気づかないうちに感染が終わることもあります。一度感染すれば免疫がつき、再感染や慢性化はありません。

予防の基本は、生ものを避け、加熱した食品を食べることです。タイでは地域的な流行が起こることもあります。確実な予防法としてはA型肝炎ワクチンの接種が有効です。日本で使われているワクチン(Aimmugen®)は3回接種(初回、1カ月後、6カ月後)で完了します。接種部位の痛みや軽い発熱などの副反応がみられることがありますが、多くは軽度です。

E型肝炎

E型肝炎ウイルスもA型と同じくヒトの糞便で汚染された水や食品を口にすることで感染します。加熱不十分な豚肉や内臓料理が感染源となることもあります。

一般的に慢性化はしませんが、免疫力が低下している人や臓器移植後の方では慢性化することがあります。また、一度感染すると一定の免疫が得られますが、再感染が起こるケースもあります。

致死率は0.5〜3%とされ、特に妊婦が妊娠後期に感染した場合は致死率が20%前後に上がることがあります。妊婦にとって最も注意すべき感染症の一つです。

治療は対症療法が中心で、特効薬はありません。ワクチンについては、中国で「Hecolin」というE型肝炎ワクチンが承認されていますが、日本やタイではまだ使用できません

B型肝炎

B型肝炎は血液や体液を介して感染します。主な感染経路は性交渉、注射針の共用、いれずみ、針治療などです。

潜伏期間は1〜6カ月で、倦怠感、食欲不振、発熱、黄疸などの症状が出ます。放置すると肝硬変や肝がんへ進行するおそれがあります。

予防法は、コンドームの使用やかみそり・歯ブラシの共用を避けること、そしてB型肝炎ワクチンの接種(初回、1カ月後、6カ月後の3回)です。

成人が感染した場合、約95%は自然に治りますが、約5%が慢性化します。まれに劇症化して死亡することもあるため、早期受診が大切です。

母子感染によって子どもが慢性化するケースもありますが、タイでは1992年から新生児への定期接種が行われており、母子感染対策は広く普及しています。現在のタイ人の慢性B型肝炎キャリア率はおよそ2〜3%(過去は8〜9%)です。日本でも2016年から乳児への定期接種が始まっています。

チェック
  • A型肝炎:汚染水や生食が原因。ワクチンで予防できます。
  • E型肝炎:豚肉や内臓の加熱不足に注意。妊婦は特に要警戒。
  • B型肝炎:血液・体液感染。ワクチン接種で防げます。

タイで毎年経験する食中毒。完全予防は無理なようです。

食中毒 急性胃腸炎

タイに来てすぐはタイの細菌に身体が慣れていないためか、過剰反応を起こし、下痢をする人がかなりいます。多くは菌が体内に入ってから4~20時間後に症状が現れます

下痢がひどくても、水を飲むことができれば、特に心配はありません。しかし、水を飲むと嘔吐してしまうなど、自分で水分を補給できない場合には、すぐに入院して点滴を受けなければなりません。脱水症状を起こしますと、心臓麻痺で死亡することもありますので、とにかく水分を十分に摂取することがなにより大切です。

一方、嘔吐することなく自力で水分を補給できる場合には、スポーツドリンクなどが有効です。また、薬局やコンビニで売っている電解質補給粉末も脱水症状の回復に非常に役に立ちます。「ORS」といえばわかります。1袋10バーツ程度です。

生水は危険です

バンコク都は1995年、日本の技術協力を受け、水道水の安全宣言を行いました。そのため、今では浄水場の水は飲むことができます。しかし、送水管の亀裂から細菌類が入り込むことが少なくありません。

また、マンションの貯水タンクに衛生上の問題があることもあります。ねずみ、ゴキブリならまだしも、死体が遺棄されていたことさえあります。ここまで酷いのは稀ですが、それでも生水を飲むのは絶対に危険です。

さらに氷も安全とはいえません。特に地方の食堂で出てくる細かく砕かれた氷には口にしないほうが無難です。

食材はよく洗浄しましょう

野菜・果物は専用洗剤で洗うと安心です。また、乳製品は、消費期限が来たら、迷わず捨てましょう。さらにいえば、保管がいい加減な店もあるので、消費期限前でも注意が必要です。特に小さい子どもに牛乳を飲ませる場合にはまず大人が味見した方がいいでしょう。何か時代劇の味見役みたいですが、タイに来たばかりでまだタイの菌に抵抗力のない子どもに対しては細心の注意を払ってください。子どもが脱水症状を起こした場合には死亡の危険性が高まりますので。

コレラ

TBSドラマ「仁 jin」で江戸時代のコレラ大流行のシーンがでてきますが、タイでは平均すると、3年に1度の割合で流行するといわれていますが、これはあくまで傾向であり、日ごろから注意が必要なことに変わりはありません。

コレラの症状ですが、通常は1~5日の潜伏期間の後、下痢や嘔吐が始まります。一昔前は「米のとぎ汁のような下痢」がコレラの代表的症状で、今もガイドブックなどでそのような表記を見かけますが、現在、流行しているコレラはここまでひどくなることは稀です。軟便から水便まで幅が広く、自覚症状では食中毒との区別がつかないケースも多いようです。さらに、嘔吐を伴うことがありますが、熱の出ることはあまりありません

食中毒との違いはコレラでは抗生物質の投与が絶対に必要となる点です。食中毒と同様、脱水症状を防ぐために、早急な点滴が必要となります。

なお、タイでは病院によっては外来に対して点滴を行いませんので、重度の下痢で通院する場合には入院の用意をしていった方がよいでしょう。

  • URLをコピーしました!
目次