英国の非政府組織(NGO)「オックスファム」によれば、世界の人口の1%にあたる富裕層の資産は、それ以外の人々の全資産を合計した額より多いそうです。そしてこの格差は年々、拡大しているといいます。
ここタイも貧富の差は相当なものです。政府は成績のよい経済指標を取り上げ、「経済はよくなっている」とアピール。海外から投資を呼び込もうとしていますが、貧困者にとってみれば「どこの国の話?」といったところでしょう。相も変わらず先の見えない苦しい暮らしを余儀なくされている人々は大勢います。
今年(2018年)4月1日から1日当たりの最低賃金が引き上げられました。東部2県(チョンブリ、ラヨン)と南部1県(プーケット)が最大で330バーツ(1バーツは約3・4円)、最少は最南部3県の308バーツ、バンコクは325バーツとなりましたが、それまでの最低賃金(300~310バーツ)からの増加分はわずかであり、貧困者の生活必需品の物価上昇に追いついていません(この物価上昇率は単純にインフレ率では測れません)。
さらに、貧困者の多い農村では農作物価格が低迷。しかし省庁間の縄張り意識から適切な対応はこれまでほとんどできていません。
無策との罵りを受けないようにするためか、タイ政府は応急措置として「福祉カード」なるものを見切り発車的に立ち上げました。これは年収10万バーツ以下の貧困者に生活費を支給するというものです。収入に応じて月額200バーツもしくは300バーツの生活費が政府支給のカードに振り込まれるほか、別途交通費として月額500バーツが補助されます。しかし、カード情報の読み取り端末のない店舗では使用できません。つまり、貧困者が最も利用する雑貨屋・屋台では使用できないということです。
さらに貧困者への政府支援金に群がる“ハイエナ”公務員の存在も厄介です。政府反汚職委員会(PACC)のコンティップ事務局長は先日、社会的弱者支援のため全国に設置されている福祉センター24カ所で予算の不正流用があり、職員100人以上が解任される可能性があると発表しました。これから調査に入るということですが、貧困者を食い物にするというのは貧困対策を疎かにしてきたタイの伝統的やり口ともいえます。
そもそも月々数百バーツのお金を渡したところで貧困を抜けだすことができるはずもありません。本当に必要なのは貧困者が教育を受ける機会を拡大することです。ところが、教育省は3月26日、貧困家庭の少女に教育を受ける機会を与えるための教育省基金から1億バーツ以上を着服した専門職の女の存在が内部調査で発覚したと発表しました。この職員は長年にわたって基金の資金を親類や知人の銀行口座に振り込んでいたそうです。
日本ならテレビ・新聞で連日大々的に報道されそうな事件ですが、マスコミの扱いはそれほど大きくなく、タイの地方出身者も「別に珍しいことではない」と口を揃えます。「これまでも地方の有力者が支援資金を懐に入れていたことはわかっていた。でも、有力者はみなグルなので、表立って批判しようものなら、どんないやがらせをされるかわからない」といった諦めの声がよく聞かれます。
ちなみに、その時に使われるタイ語が、マイペンライ。タイ人気質を象徴する言葉として、「大丈夫。気にしない」などと訳されますが、「なるようにしなならない。仕方がない」という意味でつかわれることも多いような気がします。
貧困問題への取り組みは過去のいずれの政府も政策に掲げていますが、これまでわずかでもそれが実現できたのはタクシン政権のみ。そして、そのタクシン政権で貧困政策の青写真を作ったのは、現軍事政権で経済政策担当の副首相を務めるソムキット氏です。同氏が長年訴えている貧困対策は、教育と医療に対しては政府が十分に支援するが、実際の収入増は各自の自助努力に期待するというものです。ただ、肝心の教育支援での不正が全国に拡散しているようでは、「タイの将来、大丈夫ですか」。