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日本政府は売り込みに熱心だけど時速300キロの新幹線がタイに本当に必要なの?

タイの首都バンコクと北部の観光地チェンマイを結ぶ約670キロの路線に日本の新幹線方式の高速鉄道を整備する計画が検討されています。ただ、チェンマイは素朴な観光都市であり、特別な政治機能、経済機能があるわけではありません。内外の観光客は多いですが、格安航空の便数も多く、アクセスに不便することはあまりありません。ここに総整備費4200億バーツ(約1兆4700億円)ともいわれる大金をかけ、時速300キロの新幹線方式の鉄道を建設することを日本政府は提案しています。

昨年(2017年)12月14日には、第1フェーズで開発するバンコク・ピサヌローク間(約380キロ)の事業化調査最終報告書が訪タイした牧野副国交相からタイのアーコム運輸相に渡されました。この報告書に書かれている全体像では、合計12駅を整備し、所要時間は3時間半、運賃1000バーツ以上を想定しています。仮にタイ政府がこのスペックで正式決定した場合、2019年着工、25年完成が可能としています。さらに、報告書ではタイに経済効果をもたらし、50年で採算がとれるとされていますが、どうしても優先順位の高いプロジェクトとは思えません。

この新幹線計画が浮上したのは2013年。現在国外逃亡中のインラック前首相の時代です。当時、 2020年までに2兆バーツ(約6兆5000億円)を投じて新幹線方式を含む4本の高速鉄道などの大型インフラを建設しようというタイ政府の交通計画に野党・経済界がいっせいに反発していました。

現在、政府の経済政策をほぼ一任されているソムキット副首相は当時、政権批判の急先鋒であり、自らが主宰する団体が開催したセミナーでも「高速鉄道は150キロで十分。それもチェンマイではなく、東部の工業地域とバンコクを結ぶべきだ」との提言をまとめていました。

インラック首相(当時)も国会で新幹線を建設するメリットを問いただされ、「新幹線があれば、地方の野菜をバンコクにその日のうちに運べる」と発言するなど〝迷走〟を続け、しまいには、「野菜を運ぶ新幹線」と曲名に皮肉を込めた歌までネット上に登場することになりました。

それから5年がたった今、現運輸相は新幹線計画に乗り気のようですが、やはりソムキット副首相にとっては、それほど魅力的なものではないようです。現地報道ではプラユット首相は最高時速を180-200キロ程度に引き下げることで総整備費を縮小することができないか検討するよう運輸省に指示したとのことですが、これはおそらくソムキット副首相の意向を受けてのものでしょう。(2018年2月、ソムキット副首相は最高時速300キロに賛成しましたが、その一方で、建設費用の半分を日本側の投資でまかないたいとの考えも表明しました。さすが、タイ人、駆け引き上手)

日本政府はタイに新幹線を導入し、中国と争っている鉄道輸出のシンボルとしたいようですが、その実現はなかなか難しそうです。

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