タイ国内で給与・臨時収入・利子などの収入がある外国人は個人所得税が課税されます。さらに、1月1日から12月31日までに180日以上タイに滞在している場合は、タイ国外での所得も課税対象となります。
課税所得は年間所得から所得控除を差し引いたものとなります。日本人に適用される主な所得控除としては、本人控除(6万バーツ)、配偶者控除(6万バーツ)、子ども控除(3万バーツ/人)、経費控除(最大10万バーツ)、保険控除などがあります。
タイは日本と同様、累進課税方式を採用しているため(最高税率35%)、所得額に応じた所得税率を課税所得にかけ合わせることで、所得税額が算出されます。
個人所得税について
納税義務者
以下の条件のいずれかを満たす者がタイ居住者(Resident)とされ、全世界所得に対して課税されます。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 滞在日数 | タイ国内に年間180日以上滞在した者 |
| 所得源泉 | タイ国内で所得を得た非居住者も対象(源泉徴収で完結する場合あり) |
課税対象となる所得(8種類)
タイでは、所得を以下の8カテゴリーに分類して課税します。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| ① 給与所得 | 給料、賞与、手当、退職金など |
| ② 事業所得 | 対象は自営業・フリーランス・個人事業 |
| ③ 賃貸所得 | 不動産賃貸、機械賃貸など |
| ④ 株式・債券収入 | 配当・利子・株譲渡益(例外あり) |
| ⑤ ロイヤルティ | 特許・著作権などの使用料 |
| ⑥ 専門サービス報酬 | 医師・弁護士・会計士などの専門職報酬 |
| ⑦ 非継続的契約 | 建設請負、短期契約業務など |
| ⑧ その他 | 一時所得(宝くじ当選等)など |
所得控除と課税所得の算出方法
課税対象額は以下のように計算されます:
課税所得=
【総所得】-【給与所得控除】-【費用控除】-【所得控除】
所得控除(人的控除)
| 控除対象 | 控除額(年額) |
|---|---|
| 本人 | 60,000バーツ |
| 配偶者 | 60,000バーツ(所得がない場合) |
| 扶養家族(子) | 子1人あたり 30,000バーツ(最大3人) |
| 保険料控除 | 生命保険50,000バーツ、健康保険25,000バーツ(自己負担分) |
| 社会保険控除 | 実額(最大9,000バーツ) |
| 退職積立控除 | 最大500,000バーツ(特定条件下) |
| 寄付金控除 | 所得の10%まで控除可(教育・医療分野など) |
税率表(2025年現在)
タイの所得税は累進課税制度です。
| 課税所得(バーツ) | 税率 |
|---|---|
| 0〜150,000 | 0% |
| 150,001〜300,000 | 5% |
| 300,001〜500,000 | 10% |
| 500,001〜750,000 | 15% |
| 750,001〜1,000,000 | 20% |
| 1,000,001〜2,000,000 | 25% |
| 2,000,001〜5,000,000 | 30% |
| 5,000,001以上 | 35% |
申告・納税の方法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所得税申告期間 | 毎年1月〜3月(前年の所得) |
| 申告書様式 | 個人(PND.90 / PND.91) PND.90:複数所得者 PND.91:給与所得のみ |
| 納税方法 | 一括納付 or 分割納付(2回まで) |
| 申告方法 | 一般にオンライン申告(https://efiling.rd.go.th/) |
| 延滞罰則 | 申告遅延:罰金2,000バーツ納税遅延:年1.5%の延滞利息 |
源泉徴収制度(Withholding Tax)
タイでは、支払者が所得税を源泉徴収して歳入庁に納める制度が広く用いられています。
| 所得種別 | 源泉徴収率 |
|---|---|
| 給与所得 | 累進税率に従い会社が月次で徴収 |
| フリーランス報酬 | 3%(原則) |
| 配当所得 | 10% |
| 利子所得 | 15% |
| 不動産賃料 | 5%(法人からの支払時) |
外国人の特例・注意点
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 二重課税防止 | 日・タイ間で租税条約締結あり |
| 海外所得の課税 | タイ居住者でもタイに送金された金額により課税(※) |
| 駐在員 | 日本本社からの支給額も含め、タイ国内で課税対象となる可能性あり(要契約書確認) |
| 退職金・年金 | 条件により免税・軽課税の可能性あり(事前調査推奨) |
(※)2023年までは海外で稼いだ年にタイへ送金しなければ(翌年以降に持ち込めば)非課税でした。しかし、2024年1月1日以降の所得は、稼いだ年に関係なく、タイ居住者が海外所得をタイに持ち込めばすべて課税対象となります(歳入局通達 Por.161/2566)。
年間所得税の概算(例)
タイ駐在員Aさん(居住者)
- 年収(給与):1,200,000バーツ
- 控除:本人(60,000)、社会保険(9,000)、保険(50,000)
課税所得 = 1,200,000-100,000(給与控除)- 60,000(本人)- 9,000-50,000 = 981,000バーツ
累進課税で計算 所得税 約83,350バーツ
よくある誤解と注意点
| 誤解 | 正しい情報 |
|---|---|
| 海外収入は非課税 | 居住者が送金した海外収入は課税対象 |
| 会社が全部やってくれる | 源泉徴収済みでも年次確定申告は義務(特に副収入がある場合) |
| 配偶者控除は常に使える | 配偶者が無収入・無申告であることが条件 |
| 非居住者は課税されない | タイ国内で収入があれば非居住者でも課税対象になることがある |
日・タイ租税条約の概要
日本とタイの間で締結されている「二重課税防止条約(租税条約)」に基づく、主な条文とその適用条件・運用実務について分かりやすくまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 「所得に対する租税に関する日本国とタイ王国との間の条約」 |
| 締結日 | 1983年3月5日(発効)最新改正:2018年(自動情報交換制度含む) |
| 適用範囲 | 所得税、法人税、配当、利子、ロイヤルティなどに関する課税権の調整 |
| 目的 | 重複課税の回避と租税回避行為の防止 |
主な条文とその内容(簡易要約)
第4条:居住者(Resident)
- 両国に「居住者」として該当する場合、実質的な居住地(恒久的住居・家族の有無)で居住者国を決定。
- タイに180日以上滞在すれば「タイの居住者」とされることが多い。
第14条:独立個人サービス(自営業・フリーランス)
居住国で課税。ただし、他国で固定の事務所がある場合や180日もしくは183日を超える滞在があれば、その国で課税されることもある。
第15条:給与所得
- 原則:勤務が行われた国(タイ)で課税
- 例外:以下3条件すべて満たす場合は日本でのみ課税
- 滞在日数が暦年で180日以内
- 報酬がタイ法人から支払われていない
- 報酬負担者がタイの常設事業所でない
第10条:配当所得
- 源泉地国(支払国)で最大10%まで源泉徴収可能
- 残りの所得は居住国で課税、日本の税額控除制度により調整
第11条:利子所得
- 最大10%の源泉税が課される(支払国側)
- 残りは居住国で課税。調整は同上。
第12条:ロイヤルティ所得
- 著作権・特許などの使用料も、源泉地国で最大5〜15%の源泉税が可能
- 居住国で再課税される場合は、外国税額控除により二重課税を防止
実務上の適用条件・手続き
タイでの日本源泉所得(配当・利子・報酬など)
- 租税条約適用届出書(Certificate of Residence)を日本の税務署から取得(日本の居住証明)
- これをタイ歳入局または支払者に提出し、源泉税の軽減(または免除)を適用
日本での外国税額控除(タイ側で課税された所得)
- タイで所得税納付済の証明書(納税証明書)を取得
- 日本の確定申告で「外国税額控除」の適用申請を行う(※タイ側の課税額が確認できることが必要)
二重課税の調整方法(日本側)
日本の居住者がタイで税を納めた場合、日本では以下の方法で調整されます:
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 外国税額控除 | タイで課された所得税額分を日本の所得税額から控除(限度あり) |
| 所得除外方式(適用外) | タイ条約は所得除外方式ではないため、日本での申告は必要 |
よくあるパターン別対応
| ケース | 所得の取扱い | 実務対応 |
|---|---|---|
| タイに赴任した日本人駐在員 | 給与の大部分がタイ課税対象 | タイで課税、日本で外国税額控除 |
| タイの配当を日本で受け取る | タイで源泉10%、日本で残額課税 | 所得申告 + 外国税額控除 |
| タイに短期滞在して講演料等を得た | 所得地国で課税(タイ) | 所得証明を取得し、日本で控除手続き |
| タイ非居住者のフリーランス所得 | 所得の源泉地(タイ)で課税 | タイ側源泉徴収、日本での調整必要 |
注意点とアドバイス
- タイでの源泉徴収を避けるためには、日本居住証明の提出が必須
- タイで納税済みでも、日本での確定申告が不要になるわけではない
- 税額控除の適用上限を超えた場合、実質的に一部が課税される
- 年度ごとのルール変更や条文改正に注意
