日本車の一大生産拠点として知られるタイで、静かな駆け引きが進んでいます。中国製EV(電気自動車)の急速な台頭を受け、長年タイの自動車産業を支えてきた日系メーカーから「公平な競争環境がほしい」という声が上がっているのです。
ニュージーランド訪問中のアヌティン首相は8月21日、日系企業がタイでの生産を他国へ移すことを検討しているとの見方を否定した上で、EV優遇策の見直しに乗り出す考えを示しました。副首相兼財務相のエクニティ氏に対し、国籍を問わずすべてのメーカーが公平に扱われるよう制度を精査するよう指示したといいます。
背景にあるのは、タイ政府が自動車生産拠点としての地位を守るため中国系EVメーカーに手厚い税優遇を用意してきたことです。これに対し、トヨタやホンダなど日系メーカーが今月(8月)、タイで生産した車より輸入したEVの方が税負担が軽いとして、税制の見直しを政府に求めることになりました。
8月4日にはインドネシアの財務相がトヨタに生産拠点の移転を働きかけていたことも判明。日タイ企業の間で動揺が広がります(トヨタはその後、タイでの事業継続を改めて表明しています)。そこで、アヌティン首相は日系メーカーとの結びつきの深さを改めて強調。タイの自動車産業は、日系企業が主導するかたちで、エンジンや車体まで大半の部品を国内生産できる体制を長年かけて築いてきたとして、日本の果たしてきた役割を高く評価しました。
ただ、その一方で、首相は、EV生産の初期段階では部品の多くを海外から輸入せざるを得ないとして、中国側にも配慮。電池や制御システムといった国内サプライチェーンは今後整っていくとの見通しを示しています。
タイは昨年(2025年)、1兆バーツ(約4兆8000億円)を超える海外直接投資を呼び込んだとされ、今年上半期だけで投資額は既に5300億バーツ(約2兆2400億円)に達しています。タイ政府は、タイ投資委員会(BOI)とも連携し、EV優遇制度の透明性を高める方針を示されており、国や技術で線引きしないバランスの取れた産業支援へ転換できるかが注目されています。

