タイで「水牛」が静かなブームを迎えています。
2026年3月、中東情勢の影響でタイのディーゼル価格が一夜にして最大18%も急騰しました。農機を動かすたびに家計が削れていく農家にとって、これは切実な問題です。そんな中、中部チャチュンサオ県の農村部では、農作業用として水牛の貸し出しを行う住民が注目を集めています。燃料費の高騰に悩む農家からの問い合わせが急増しているといいます。
水牛のレンタル料金は、耕作する土地の広さに応じて月額5,000〜6,000バーツ(約2〜2.4万円)。農機を動かすディーゼル燃料代と比べれば、驚くほど割安です。しかも水牛は燃料いらず、おまけに堆肥まで提供してくれる「天然の農機」。耕作に適した水牛は3〜5歳で、「プライ・ファー」と名付けられた大型の個体は体高がほぼ2メートルに達し、田畑で効率的に働けるそうです。
日本人からすると「のどかな昔の風景」に映るこの光景。でもタイにとって水牛は複雑な存在でした。かつては農家の富の象徴でしたが、近代化の波とともに「クワーイ(水牛)」という言葉はタイ語で「愚か者」を指す侮蔑語にもなっていったのです。その水牛が今、エネルギー危機という現代の問題によって堂々と田んぼへ帰ってきました。
地元農民たちは、水牛の利用は燃料費の削減だけでなく、生産費が上昇し続ける中で伝統的な農法を保存するためにも役立つと語っています。「愚か者」と呼ばれた動物が、令和のエネルギー危機をしたたかに乗り越える知恵の象徴へ。タイの農村のたくましさに、頭が下がります。

