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タイ下院総選挙でいきなりのアメージング。これだからタイは何年いても飽きがきません。

8年ぶりの下院総選挙が3月24日に行われるタイですが、2月4日から8日にかけて行われた立候補届出受付の最終日、会場にどよめきが起きました。タイ国家維持党が現タイ国王の実姉であるウボンラット王女を首相候補として擁立することを発表したためです。

タイの選挙制度は小選挙区比例代表併用制を採用していますが、首班指名選挙で首相候補を擁立したい政党は3人を上限とする首相候補名簿を2月4日から8日までに選挙管理委員会に提出しなければなりません。この3人は選挙に立候補しても、しなくても構いません。そして今回、前出のタイ国家維持党はこの首相候補として、ウボンラット王女を名簿に加えたのです。

実はこの噂は数日前からタイのマスコミの間では流れていましたが、いずれのメディアも、こと王室に関係することだけに記事にはできませんでした。それに、「そんなこと実際にできるはずがない」と皆考えていたようです。

ところが、立候補受付最終日、その噂が現実のものとなってしまいました。ウボンラット王女は米国留学時代に知り合った米国人と結婚されるため王室を抜けたのですが、その後、離婚したことから、タイに戻り、故プミポン国王のご配慮により王室メンバーとして活動されることになりました。一般人ながら王室メンバーという微妙な立場に目をつけた政党が王女を担ぎ出したのですが、これに対し、現国王は「王女を王室メンバーである」と明言するとともに、政治にかかわることを強く批判されました。国王のご意向に逆らうという選択肢は今のタイにはありません。政党が擁立断念を決定したのは当然の流れでした。

これでアメージングな騒動は今後擁立した政党の責任問題へと移るわけですが、仮に王女を擁立できた場合は、今回の総選挙に与える影響は少なくなかったでしょう。

「タイ国民が政権に期待する政策は何か」ーー世論調査の好む話題ですが、回答者はえてして都市部に住む人が多いためか、景気対策、汚職対策などが上位に入ります。ただ、これを意識して農村部まで調査範囲を広げるとどうなるのか。タクシン元首相の妹であるインラックさんが首相に就任した時、農村部を積極的に含めた世論調査が行われたのですが、この時、最も多かったのが「覚せい剤対策」でした。

タイの農村部に住む人々が、どれほど覚せい剤中毒者、覚せい剤組織におびえて暮らしているかは、都会に住む外国人にはわかりにくい部分ではあります。殺人、恐喝、暴行、レイプ、強盗、窃盗などあらゆる犯罪の背景に覚せい剤があるといっても過言ではありません。

そして、タクシン政権後のいずれの政権も覚せい剤対策では国民から評価を受けることができませんでした。今の軍政も最初は軍と警察が協力して覚せい剤取り締まりを熱心に進めていましたが、徐々に減速。地方の住民からは最初の期待値が大きかっただけに、失望する声も聞かれます。

ウボンラット王女は青少年問題に熱心に取り組まれていることもあり、覚せい剤取り締まりで、王室の権威を背景として断固たる対応をされるのではないか。わずか1日で擁立が撤回されたのですが、そう期待する声が地方では聞かれました。

政治に「もし」は無意味ですが、仮に首相候補として認められたとしたら、最大票田の農村部を中心にかなりの票を獲得していたかもしれません。農民にとり経済政策をいくら熱弁されたところで「何の話?」というところでしょう。

ウボンラット首相ーー見てみたかった気もします。

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