【タイ出張】法人税・付加価値税VAT・移転価格税制を知る(26年8月)

タイへの進出や、タイでの事業拡大を検討している日本企業にとって、現地の税制を正しく理解しておくことは欠かせません。タイの税制は日本の仕組みと似ている部分もありますが、申告の回数や罰則の重さなど、タイ独自のルールも数多く存在します。進出後に思わぬペナルティを受けないためにも、法人税、付加価値税(VAT、日本の消費税に一部類似する税金)、移転価格税制という3つの柱について、基本を整理しておきましょう。

目次

法人税の仕組みと申告期限

タイの法人税は、企業が得た純利益に対して課税されます。標準税率は20%で、アジア周辺国と比較しても競争力のある水準といえます。

中小企業(SME)向けには、税負担を軽くする軽減措置も設けられています。対象となるのは、払込資本金が500万バーツ(約2200万円)以下、かつ年間の売上高(総収入)が3000万バーツ(約1億3200万円)以下の企業です。課税対象となる年間純利益のうち、30万バーツ(約132万円)までは非課税、30万バーツを超え300万バーツ(約1320万円)以下の部分は15%、300万バーツを超える部分には標準税率の20%が課税されます。

実務上、特に注意したいのが年に2回ある申告と納税のタイミングです。会計年度の開始から8カ月以内に中間申告書(PND51)を提出し、年度終了後150日以内に年次申告書(PND50)の提出と最終納税を終える必要があります。中間申告で見積もった年間純利益が、確定した実際の年間純利益より25%以上低かった場合、その理由を報告して当局に認められなければ、不足税額に対して20%の加算税が科されます。日本以上に精度の高い業績予測と、丁寧な税務管理が求められる仕組みといえます。

毎月申告が必要なVAT実務

タイ国内で物品の販売やサービスの提供を行う事業者は、付加価値税(VAT)申告を適切に行う必要があります。税法上の本則税率は10%ですが、1992年の制度導入当初から、税負担を軽くする目的で7%へ引き下げられました。1997年のアジア通貨危機の後に一時10%へ引き上げられたものの、1999年には景気対策として再び7%へ戻され、以降は暫定措置というかたちで7%の適用が続けられてきました。

タイ内閣は2026年7月27日の閣議で、2026年9月30日に期限を迎える予定だったVAT7%の軽減税率について、適用期限を2027年9月30日までさらに1年間延長することを承認しました。物価高が続くなかでの家計負担の抑制と、経済回復を後押しする狙いがあります。

年間の売上高が180万バーツ(約792万円)を超える事業者にはVATの登録義務が生じ、この基準額を超えた日から30日以内に登録手続きを行わなければなりません。申告と納税は毎月行い、前月分の取引について、原則として翌月15日(電子申告の場合は翌月23日)までに完了させなければなりません。日本の消費税が税額により年間1回~12回と幅があることに比べると、タイでは毎月の対応が求められる点は大きな違いです。

VAT実務の中核となるのが、税額票(タックスインボイス、仕入税額を証明する領収書のような書類)の管理です。仕入時に支払ったVATを売上VATから差し引く仕入税額控除を受けるためには、法定要件を満たしたタックスインボイスの原本を保管しておく必要があります。記載に不備があったり、偽造インボイスとみなされたりした場合には、仕入税額控除が否認されるだけでなく、追徴金や毎月1.5%の延滞税が科されます。

厳格化する移転価格税制

海外進出企業にとって最大級の税務リスクの一つが、グループ企業間の取引価格を規制する移転価格税制です。タイでは2018年11月の歳入法改正を経て、2019年1月以降に開始する事業年度から移転価格税制が正式に導入されました。タイは経済協力開発機構(OECD)が主導するBEPS(税源浸食と利益移転、多国籍企業による過度な節税を防ぐための国際的な取り組み)包摂的枠組みに参加しており、日本の国税庁にあたるタイ歳入局は、関連会社間の取引に対する監視を強めています。2021年10月には、国別報告書(CbCR、多国籍企業グループの活動状況をまとめた報告書)の提出義務化も導入され、国際的な透明性の確保が進んでいます。

移転価格税制とは、タイの現地法人と日本の親会社など「関連会社」との間で行われる取引価格が、独立した第三者間での取引価格(独立企業間価格、ALP)と異なる場合に、適正な価格へ引き直して課税所得を再計算する制度です。タイの税法上、直接・間接を問わず株式の50%以上を保有・管理している関係などが、関連会社に該当します。対象となる取引は、製品や原材料の売買、経営指導料・技術支援サービスの提供、ロイヤルティの支払い、グループ内融資の金利、共同開発費用の分担など、多岐にわたります。

独立企業間価格を算定する方法として、歳入局は国際基準に準じた次の5つの手法を認めています。

  • 独立価格比準法(CUP法)
  • 再販売価格基準法(RP法)
  • 原価基準法(CP法)
  • 取引純利益率法(TNMM)
  • 利益分割法(PS法)

提出義務については、年間総収入が2億バーツ(約8億8000万円)以上の企業は、事業年度終了から150日以内の法人税年次申告(PND50)と同時に、移転価格開示フォーム(Disclosure Form)を提出しなければなりません。2億バーツ未満の企業は開示フォームの提出こそ免除されますが、独立企業間価格で取引を行う義務そのものは免除されません。

さらに、歳入局から移転価格文書(ローカルファイル)の提出を求められた場合には、指定された期日までに書類を提出する法的義務が生じます。歳入局通達(No.407)に基づき、提出するローカルファイルは原則としてタイ語で作成する必要があります。グローバル本社ですでに英文資料を整備している企業であっても、当局への提出時にはタイ語への翻訳が求められる点には注意が必要です。開示フォームの未提出や虚偽記載には最大20万バーツ(約88万円)の罰金が科されるほか、税務調査で取引価格が否認された場合には、追徴税に加えて最大100%の加算税、および月利1.5%の延滞税が課されます

タイでの進出や事業運営にあたっては、早い段階からグループ間取引の契約書を整備し、価格設定の妥当性を証明できる根拠資料を蓄積しておくことが重要です。そして、法人税、VAT、移転価格税制という3つの制度を連動させた経理・税務体制を築くことが、タイでの安定した事業展開の基盤になります。

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