【タイ出張】タイ労働関連法・就労手続き・新休暇制度を知る(26年8月)

タイでビジネスを展開する日本企業の駐在員だけでなく、出張者にとっても、タイの労働法や就労手続きについての知識は必要です。タイの労働者保護法(Labor Protection Act、労働者の権利を定めた法律)は、1998年の制定以来たびたび改定されており、手続きのデジタル化も急ピッチで進んでいます。特にここ1〜2年は、産休制度の拡充や新たな福祉基金の創設など、駐在員の受け入れ体制や人事制度の見直しを迫られる改定が相次いでいます。ここでは、タイで働くために必要な「ワークパーミット(労働許可)」の最新情報、会社が守るべき労働法の基本ルール、そして2025年から2026年にかけての主な法改正のポイントを、まとめて解説します。

目次

就労ビザと労働許可(ワークパーミット)の手続き

一般的な企業駐在員の場合、タイで働くためには、就労目的のノンイミグラントBビザ(Non-Immigrant B Visa)と、労働省から発給されるワークパーミット(Work Permit=労働許可証)の両方が必要となります。

ノンイミグラントBビザ(就労)

ノンイミグラントBビザ(就労)は、タイ入国前に、在外のタイ大使館または領事館で申請します。会社の登記書類、個人の残高証明、タイからの招待状などの書類が必要で、申請はオンライン(E-Visa)に一本化されています。申請から承認までの期間は、標準で5〜10営業日程度です(公式発表は14営業日以内)。ただし、追加書類の提出や面接を求められるケースも稀にあるため、入国予定日の1カ月前には準備を始めておくと安心です。

労働許可(ワークパーミット)

タイ入国後は、タイ労働省(Ministry of Labour)の雇用局(Department of Employment)で、ワークパーミットを申請します。これを持たずに働くと不法就労とみなされ、最悪の場合、強制送還の対象となるほか、雇用した会社も罰則を受けます。申請にはパスポートや学歴証明書のほか、現地の医療機関で取得した健康診断書(梅毒など特定の感染症にかかっていないことを証明する書類)が必要です。

最低資本金200万バーツと「4対1の原則」

外国人を雇う会社には、外国人1人につき会社の資本金が200万バーツ以上(2人なら400万バーツ以上)必要という条件があります。加えて、外国人1人に対してタイ人従業員を4人以上正規雇用しなければならない、いわゆる「4対1の原則(1:4ルール)」もあります。このタイ人従業員は、社会保険に加入し、法定最低賃金以上の給与が支払われている正社員であることが条件であり、アルバイトは認められません。この比率はワークパーミットやビザの更新時にも審査されるため、取得後にタイ人従業員が退職して比率を下回る期間が生じると、欠員の時期によっては更新が認められないおそれもあります。

ただし、タイ投資委員会(BOI)から投資奨励を受けた企業については、この資本金・人員比率の条件が大幅に緩和される特例があります。とはいうものの、これは規則が明文化されていないだけで、タイ政府にしてみれば、投資奨励を受ける以上、資本金200万バーツ以上、従業員を4人以上は当然と考えている点は留意しておいてください。

ワークパーミットの申請が電子化

タイ労働省雇用局は、ワークパーミットの申請は原則としてオンライン申請システム「e-Work Permit」を通じて行うよう告知しています。公式ウェブサイト(eworkpermit.doe.go.th)または専用スマートフォンアプリ「DOE-Foreigner」から申請でき、進捗状況もリアルタイムで確認できます。これに伴い、これまで使われていた「ブルーブック」と呼ばれる青い冊子の許可証は、デジタルおよびカード型に変更されました。既存のブルーブックは有効期限まではそのまま使用できますが、更新時にはe-Work Permitへの移行が必要です。

ただ、オンライン申請が導入された2025年10月13日以降、システムの不具合が続出。そのため、雇用局は2026年7月28日までの暫定措置として、紙での窓口申請も並行して受け付けることにしました。しかし、今(26年8月10日)に至るも不具合やエラーが発生しており、非公式に紙での申請を容認していることから、オンライン申請が完全に定着するのはもう少し先になりそうです。なお、e-Work Permitを利用するには、雇用主の会社があらかじめシステムに事業者登録を完了させておく必要があります。

実務で起きているトラブル

ワークパーミット取得後のトラブルとしては、例えば有効期限切れがあります。ワークパーミットの期限は滞在ビザの期限と連動しているため、ビザをうっかり失効させてしまった場合はワークパーミットも失効することになります。この場合は最初から手続きをやり直すことになり、コストと時間を浪費してしまうため、失効日はカレンダーアプリに明記しておくようにしてください。

2つ目はグループ会社での兼務です。別の関連会社や子会社の業務を兼ねる場合は、既存のワークパーミットにその情報を追記しなければなりません。この手続きを怠ったまま別法人でも働くと不法就労と判断され、例えば将来、永住権を申請した場合の拒否事由となってしまいます。

タイの労働者保護法と新休暇制度/最低賃金

タイで従業員を雇う会社は、労働者保護法(Labor Protection Act B.E. 2541)が定める最低基準を守る義務があります。外国人労働者も、現地で雇用契約を締結している場合は、この法律の適用を受けます。

労働時間と休憩・休日の基本ルール

法定労働時間は、一般業務で1日8時間以内・週48時間以内です。有害・危険業務については、1日7時間以内・週42時間以内に制限されます。5時間連続して働かせた場合は少なくとも1時間の休憩を与え、週に1日以上の休日を確保することが雇用主の義務です。

時間外労働や休日労働を命じる場合は、割増賃金を支払わなければなりません。平日の時間外労働は通常の1.5倍以上、また、休日の通常労働は月給制の場合は通常の1日分の給与に加えて1倍以上の追加手当を支払うことが規定されています(つまりその日は最低でも2日分を支給)。そして、日給制の場合はで通常賃金の2倍以上、さらに、休日の時間外労働は通常賃金の3倍以上を支給する必要があります。

解雇手当

会社都合で従業員を解雇する場合は、勤続期間に応じた法定解雇手当を支払わなければなりません。119日以内の試用期間中は支払い義務がありませんが、120日以上1年未満は30日分、1年以上3年未満は90日分、3年以上6年未満は180日分、6年以上10年未満は240日分、10年以上20年未満は300日分、20年以上は最高400日分となります。ただし、職務上の不正行為、会社への不当な重大損害、正当な理由のない3日連続の無断欠勤などがある場合は、書面による事前警告と客観的証拠を前提に、解雇手当なしでの即時解雇が認めらる場合もあります。

産休・配偶者出産休暇など新休暇制度

育児・家族に関する休暇制度も大きく拡充されました。今回の改正は「労働保護法第9次改正(Labor Protection Act No.9 B.E.2568)」と呼ばれ、2025年11月7日に官報公布、同年12月7日から施行されています。少子高齢化と共働き世帯の増加に対応し、女性の就業継続と男性の育児参加を促す狙いがあります。

産前産後休暇(マタニティ休暇)は、1回の出産につき、従来の98日から120日に延長されました。会社が全額給与を支払う義務がある期間も45日間から60日間に増え、残りの期間は社会保険の給付対象となります。配偶者出産休暇(パタニティ休暇)も新たに法制化され、法律上の婚姻関係にある従業員は、子どもが生まれた日から90日以内に、最大15日間の有給休暇を取得できるようになりました。また、新生児に障害や特定の疾患リスクがある場合は、医師の診断書を添えて申請することで、産休120日に続けて最大15日間の追加育児休暇(通常賃金の50%を会社が支給)を取得できます。在タイ企業は、これらの新制度を就業規則に反映させたうえで労働局へ届け出る必要があり、人事・給与システムの改修も含めた対応が求められます。

最低賃金

最低賃金は地域ごとに設定されており、バンコク・プーケット・チョンブリ・ラヨーンなどの主要都市部では、1日あたり400バーツ(約1800円、1バーツ=約4.5円で換算)が適用されます。バンコクでは2025年7月1日に、それまでの372バーツから400バーツへ引き上げられ、この改定により約70万人の労働者が恩恵を受けたと報じられています。最低賃金は337バーツとなっています。最低賃金を下回る支払いは法律違反となり、罰金や禁錮刑の対象となります。

従業員福祉基金と企業の対応策

従業員福祉基金(EWF)の概要

従業員の退職・解雇・死亡に備えた新たなセーフティネットとして、「従業員福祉基金(Employee Welfare Fund、略称EWF)」が2026年10月1日から始まります。この制度は経済情勢への配慮から、2025年10月の開始予定が1年間延期されました。

導入から最初の5年間(2026年10月〜2031年9月)は、会社と従業員の双方が毎月給与の0.25%ずつを拠出します。2031年10月以降は、この拠出率が0.5%に引き上げられる予定です。積み立てられた資金は、従業員の退職時などに一時金として支給されます。

対象となるのは、従業員10人以上の事業所のうち、プロビデントファンド(Provident Fund=企業年金に相当する任意加入の退職給付制度)などを全従業員に適用していない企業です。プロビデントファンドを導入している会社でも、試用期間中の社員など一部が未加入である場合は、その未加入者について基金への拠出が必要になります。

拠出金の納付と不履行時の罰則

拠出金は毎月の給与から控除し、会社負担分と合わせて翌月15日までに納付します。未納の場合は月5%の延滞金が発生するほか、不納付に対しては6カ月以下の禁錮または1万バーツ以下の罰金が科される可能性があります。また、この基金への債務は労働者保護法上「優先債務」と位置づけられており、企業の資金繰りが悪化した際にも、他の債務より優先して支払わなければなりません

企業側に求められる3つの対応

相次ぐ制度変更を受け、在タイの現地法人には主に3つの対応が求められます。第一に、就業規則の見直しです。産休120日・配偶者出産休暇・追加育児休暇を規定に盛り込み、労働局へ届け出たうえで従業員へ周知します。第二に、人事・給与システムの改修です。新たな有給計算や従業員福祉基金の控除処理に対応できるよう、システムを修正します。第三に、公式情報の定期確認です。労働省、在タイ日本国大使館、日本貿易振興機構(JETRO)などの公式発表を継続して確認し、制度運用の最新動向を把握しておくことが重要です。

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