【タイ出張】在タイ日系企業の4割が深刻な人材不足問題に直面(2026年版)

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人手不足時代のタイ駐在員事情

タイに進出している日系企業の多くが、人材不足という共通の課題を抱えています。すでにタイに支社を構えている企業の担当者はもちろん、今後タイへの進出を検討している企業にとっても、現地の雇用環境の実情を知っておくことは欠かせません。短期出張であっても、支社の会議室で人事担当者から採用の苦労を聞いたり、駐在員の表情がどこか疲れて見えたりする場面に出くわすことがあるかもしれません。

タイ国家統計局(NSO)およびタイ国家経済社会開発評議会(NESDC)などの公表データによれば、2026年第1四半期(1〜3月)におけるタイの失業率は0.94%となっています。2025年第4四半期の0.70%から微増したものの、全体としては引き続き1%前後という極めて低い水準を維持しています。

過去5年間の推移を見ると、2021年はコロナ感染再拡大の影響で失業率が年平均1.5〜1.9%程度まで上昇し、特に第3四半期には2.25%と過去十数年で最悪の水準を記録しました。しかし2022年以降、入国規制の緩和や観光業の再開を追い風に雇用市場は復調し、2023年には1.1%前後まで改善。2024年以降は0.8〜1.0%の範囲で安定し、2025年も0.7〜0.8%という極めて低い水準を維持しています。

このため、製造業をはじめとする企業の求人数は高止まりしており、労働市場は労働者が有利な「売り手市場」となっています。特にエンジニアやIT技術者、高度なマネジメント能力を持つ人材の不足は深刻です。

採用競争が激化する背景

かつてのタイでは「日本ブランドへの憧れ」から、求人を出せば多くの応募が集まる時代もありました。しかし現在の労働市場は大きく様変わりしています。ジェトロ(日本貿易振興機構)が2023年度に実施した調査によると、タイでは日系企業の40.4%が深刻な人材不足に直面していることが明らかになりました。また、投資リスクとして「人件費の高騰」を挙げた企業は72.8%に達し、全項目の中で最多となっています。別の調査では、エンジニアや自動車・電子部品分野の技術職は年5〜8%、IT・デジタル人材は年8〜12%の賃金上昇が続いているとの結果が出ています。ただ、賃金上昇を容認したとしても、優秀な人材の獲得は難しいのが現状です。タイ政府もBOI(投資委員会)を通じてデジタル人材育成などの制度拡充を進めていますが、需要に供給が追いつくまでにはかなりの時間がかかりそうです。

タイ人求職者も高度人材であればあるほど、給与水準が外資の中では低く、過度に規則を重んじる日本企業を敬遠する傾向があります。その一方で、タイの地場大手財閥企業は給与・福利厚生を強化し人気を集めています。人材コンサルタント企業ワーク・ベンチャーの「就職したい人気企業ランキングTOP50(2023年)」では、50位以内の過半数が地場企業で、日系企業はわずか4社。上位10位に入った日系企業はトヨタ1社のみという結果は、日系企業のブランド力低下を象徴しています。

近年タイ進出が盛んな中国系企業も積極的な採用を行っており、特にEV(電気自動車)関連分野では技術者の争奪戦が激化し、給与を大きく引き上げてでも人材を確保しようとする動きが目立ちます。日本企業としては、賃金だけで対抗するのではなく、働きがいや成長機会を含めた総合的な魅力づけが求められていますが、それをどのように求職者に伝えるかが課題となっています。

さらに、少子高齢化の進展も中長期的な採用を難しくしています。タイの労働力人口は2017年の約5000万人をピークに減少し続けており、採用競争の激化は一時的な問題ではなく構造的な課題として受け止める必要があります

高い離職率-人材定着へ向けた実践策

せっかく優秀な人材を採用できても、数年あるいは数カ月で離職してしまうケースが後を絶ちません。タイの労働市場では、キャリアアップや給与アップを目指して転職を繰り返すことが一般的であり、1つの会社に長く勤め続けるという意識は日本ほど強くありません。特に若い世代のスタッフは、能力が十分に発揮されていないと感じたり、職場環境に少しでも不満を抱いたりすると、すぐに次の職場を探し始めます。

こうした高い離職率に対応するために、企業には以下のような取り組みが求められます。

納得感のある人事評価制度をつくる

定着率を高めるには、まず納得感のある人事評価制度の構築が出発点です。年齢や勤続年数を重視する日本の伝統的なやり方はタイでは受け入れられにくく、個人の業績や貢献度が昇給・昇進に直結する仕組みが重要です。何を達成すればどう評価されるのかという基準をあらかじめ書面で示し、定期的な面談で丁寧に説明することで、スタッフは努力が認められていると実感し、会社への信頼感を強めます。

コミュニケーションの質を高める

離職の背景には、給与だけでなく、日本人管理職と現地スタッフとの間にあるコミュニケーションの溝も関係しています。タイの従業員は、自分が担当する業務の範囲や、なぜその作業が必要なのかを明確にされることを強く望みます。一方、日本人の管理職は、周囲の状況を見て自発的に動くことや、明確な指示がなくても「空気を読んで」対応することを期待しがちです。このズレがあると、現地スタッフは「指示が曖昧で働きにくい」と感じ、日本人管理職は「指示待ちの姿勢が強すぎる」と不満を抱くようになります。

また、タイの文化では、他人の前で恥をかかされることは何よりも避けたい屈辱とされています。「面目を保つこと」は非常に重要な価値観であり、日本的な感覚で業務上のミスを職場全員の前で厳しく叱責すると、本人は反省するどころかプライドを深く傷つけられたと感じてしまいます。これが原因で人間関係が完全に破綻し、翌日から出社しなくなるケースも珍しくありません。このほか、日本企業にありがちな「なぜ?」と原因を問い詰める行為も、タイ人にとっては犯人探しをされているように聞こえ、恐怖心を植え付ける結果になります

こうした背景を踏まえ、実践面では次のような配慮が有効です。

  • 人前で厳しく叱責することは絶対に避け、改善を促したいときは個室などで1対1で穏やかに話す
  • 業務指示の際は手順だけでなく、その業務が会社や顧客にどんな「未来の価値」をもたらすかを言葉にして伝える
  • ミスを指摘する場面でも、過去の原因を責めるのではなく「次にどう改善するか」という未来志向の対話に焦点を当てる

さらに、上司と部下が1対1でじっくり話す「1on1ミーティング」を定期的に設けることで、仕事の進捗だけでなく本人の悩みやキャリア希望を聴き取ることができ、信頼関係が深まります。

現地化を進め、タイ人幹部を育成する

日本式の価値観を一方的に押し付けず、タイの文化や習慣を尊重する姿勢が経営トップには求められます。日系企業の多くは数年ごとに駐在員が入れ替わる体制をとっていますが、管理職が交代するたびに社内ルールが大きく変わってしまうと、現地スタッフは戸惑い、企業への不信感を募らせます。これは日本企業の不人気理由のひとつです。

こうした問題への解決策の1つが、現地の管理者層(タイ人幹部)を育成し、幹部層が主導して組織を運営する「現地化」の推進です。駐在員はサポートや日本本社との架け橋に徹し、現地のマネジメントは現地のリーダーに委ねるという役割分担が明確になれば、経営の継続性が保たれ、スタッフとの溝も自然と埋まっていきます。実際、現地化が進んだ企業では、タイ人幹部が採用面接や評価面談を主導するケースも増えており、駐在員が数年で交代しても組織の方針がぶれにくくなるという利点が指摘されています。

待遇・研修面での定着策

給与などの金銭的な条件だけでなく、医療保険の充実や健康診断の実施といった福利厚生の手厚さも、従業員とその家族に安心感を与えます。社員旅行や社内イベントを定期的に開催し、従業員同士の結束を強めることもタイの職場では好まれる取り組みです

研修制度を充実させ、業務に必要なスキルや資格取得の支援など自己成長の機会を提供することも、安易な転職を思いとどまる理由になります。日本語研修や社内資格制度を用意し、努力が給与や役職に反映される仕組みを見える化している企業では、離職率が下がったという声も聞かれます

採用難を打ち破る多様なチャネル

従来の求人媒体だけに頼っていては、激しい人材獲得競争を勝ち抜くことは難しくなっています。現地の求人サイトや人材紹介会社に加えて、SNSを活用した採用活動が効果を上げています。タイではフェイスブックやインスタグラムといった媒体がビジネスの場でも広く利用されており、自社の企業文化や職場の雰囲気を日常的に発信することで、潜在的な求職者へ直接アプローチできます。求人情報だけでなく、社員インタビューやオフィスの様子といった日常の投稿を積み重ねることで、応募者が入社前から職場の雰囲気をイメージしやすくなり、入社後のギャップを減らす効果も期待できます。

既存の優秀な社員から知人を紹介してもらう「リファラル採用」(社員紹介制度)の仕組みを整えることも、質の高い人材を確保する有効な手段です。信頼する知人を通じた紹介であれば、入社後の定着率も高くなる傾向があります。紹介に対して報奨金や特別休暇といったインセンティブを設けることで、社員の協力を得やすくなります。

地元の主要な大学や専門学校との連携を強化し、在学生向けのインターンシップを積極的に受け入れる企業も増えています。実際に業務を体験してもらうことで、卒業後の入社意欲を高めると同時に、ミスマッチによる早期離職を防ぐ効果が期待できます。チュラロンコン大学やカセサート大学、タマサート大学といった有力な大学との産学連携は、質の高い人材確保のうえで大きな意味を持ちます。

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