タイ投資委員会(BOI)によれば、2024 年に投資奨励を申請したプロジェクトは前年比40%増の3137 件。この件数はBOIが設立されてから最も多い数字であり、初の3000 件超えとなりました。また、投資額は前年比35%増の1 兆1385 億800 万バーツで、こちらは過去10 年で最大であり、初の1 兆バーツ超えとなっています。
産業別投資額上位5 位は以下の通りです。
- ①デジタル産業 2433 億800 万バーツ(150 件)
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プロジェクトの大半が米国・中国・香港・日本・インド・オーストラリア・タイの企業によるデータセンターおよびクラウドサービスへの投資でした(16 件、2410 億バーツ)。そのほかは、ソフトウエア開発、デジタルサービスやデジタルコンテンツのプラットフォーム構築などです。
- ②電気電⼦産業 2317 億1000 万バーツ(407 件)
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投資額の約3 割がプリント基板(PCB)関連事業で864 億2600 万バーツ(83 件)に達しました。PCB 関連投資は中国・台湾・香港・日本の企業が中心。そのほかは、ウエハー製造、ICデザイン、半導体および関連機器組立・試験、スマート電子・電気製品製造などです。
- ③⾃動⾞・部品産業 1023 億6600 万バーツ(309 件)
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日本・中国・欧州の企業による電気自動車(EV)および内燃機関車(ICE)関連投資が中心となりました。具体的には、自動車用タイヤ、航空機用タイヤ、自動車スマートシステム、自動車部品など。
- ④農業・⾷品加⼯産業 876 億4600 万バーツ(329 件)
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投資が目立った事業は、食品・飲料・調味料製造、飼料製造、植物性油・動物性油製造、農産物残渣利用の梱包資材製造、動物・ペット繁殖などです。
- ⑤⽯油化学・化学産業 490 億6100 万バーツ(235 件)
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投資の大半が化学製品、特殊ポリマー、産業用プラスチック、多層フィルム包材となっています。
また、6 位以下は、⑥観光産業 307 億8600 万バーツ(36 件)、⑦医療産業 180 億3700 万バーツ(91件)、⑧オートメーション産業 145 億2200 万バーツ(24 件)、⑨バイオテクノロジー産業 71 億7000万バーツ(26 件)、⑩航空産業 20 億1300 万バーツ(9 件)となります。
このほか、タイの経済成長にとって重要な事業であり、投資額が多いものとしては以下のような事業があります。
オートメーション機器・超精密機器事業 391 億6200 万バーツ(174 件)
医療機器・医療サービス事業 182 億3700 万バーツ(92 件)
⽣産性向上のための投資
2024 年の生産性向上を目的としたスマート化およびサステナビリティ化のための措置に関する投資の奨励申請は407 件、355 億6000 万バーツでした。投資額は前年比30%増となっています。分野別では省エネ、代替エネルギーが最多。これに、製造業における機械刷新と自動化システム導入が続きます。
海外直接投資(FDI)
投資奨励申請案件を海外直接投資(FDI)に限定すると、プロジェクト数は前年比51%増の2050 件、投資額は同25%増の8321 億1400 万バーツとなりました。国・地域別で投資額が最も多かったのはシンガポールで3575 億4000 万バーツ(305 件)。ただ、このうち、2500 億バーツが中国、450 億バーツが米国に本社のある企業の投資でした。以下、中国1746 億3800 万バーツ(810 件)、香港822 億6600 万バーツ(177 件)、台湾499 億6700 万バーツ(126 件)、日本491 億4800 万バーツ(271 件)と続きます。
米国は257 億3900 万バーツ(66 件)となっていますが、シンガポール子会社を通じた投資を合わせると、投資額は700 億バーツを超え、日本と台湾を抜きます。
タイ国内エリア別投資
また、国内エリア別投資額ですが、最多は東部で5730 億6600 万バーツ(1456 件)となり全体の50%を占めます。以下、中部が3922 億6700 万バーツ(1199 件)で34%、東北部が715 億9100 万バーツ(139 件)で7%、北部が425 億2500 万バーツ(125 件)で4%、南部が372 億1500 万バーツ(140 件)で3%、西部が218 億4300 万バーツ(77 件)で2%となっています。
2024年の投資奨励認可プロジェクト
一方、2024 年に投資奨励が認可されたプロジェクトは前年比47%増の2678 件、投資額は同72%増の8464 億6100 万バーツとなりました。BOI によれば、これにより21 万人分のタイ人雇用枠が増加することになったそうです。また、国内調達される原材料や部品は年間1兆バーツに達し、タイからの輸出は2 兆6000 億バーツに伸長したとナリットBOI 事務局長は報告しています。
BOI が掲げる2025 年の投資奨励⽅針
ナリット事務局長は2025 年の投資動向について、地政学的要因、貿易戦争、技術制限の激化が予想されるなか、リスク軽減のため投資拠点を移す必要性が高まり、タイがその恩恵を受ける可能性を指摘します。「タイは各国との良好な関係を維持しており、グローバルサプライチェーン構築における架け橋の役割を果たすことが可能」と強調。特にトランプ大統領の下、米国と中国の経済対立激化が確実視されるなか、「タイは中国と米国の経済緩衝地帯となっている」とみています。前述のように、中国と米国の企業がシンガポールを通じてタイへの投資を拡大しているため、BOI では「この先3 年がタイの将来を決める重要期間」として、米国・中国・台湾・香港からの半導体・電子関連投資誘致を急ぐようです。
ナリット事務局長は中国企業のタイ国内調達率が上昇していることを評価。タイ企業と中国企業のビジネスマッチングに力を入れていく方針を示しました。また、2 月は中国と日本、3 月は米国でロードショーを行う予定です。
BOI の掲げる戦略的ターゲット産業(2025年~)
- バイオベース&グルーン産業
- xEV(電動車)、バッテリーおよび主要部品
- 半導体、先進エレクトロニクス
- デジタル
- 国際ビジネスセンター(IBC)
このうち、100 万人を雇用する自動車産業はタイの中心産業であり、ハイブリット車を始めすべてのセクターで競争力を引上げ、ハブとして成長させることを目指します。
タイではEV 生産ハブへの道開くため過去3 年間、EV 事業への投資奨励を強化してきましたが、現在、問題視されているのはバッテリー事業の遅れ。そのため、バッテリーセル製造事業への投資奨励をさらに強化していくとのことです。ただ、タイはバッテリーセルの原材料調達に難があるため、EV の使用済バッテリーのリサイクルが大きな課題となります。そのため、現在、バッテリーリサイクル工場立ち上げを工業省とBOI で検討中とのことです。