外国人事業法とは何か
外国人事業法(FBA、正式名称はForeign Business Act)は、タイで外国資本の企業が行える事業を制限する法律です。この法律が定める「外国企業」とは、タイ国籍を持たない個人が設立した会社、または外国側の出資比率が50%以上を占める会社を指します。たとえタイの法律に基づいて設立された会社であっても、外国側の出資比率が50%以上であれば規制対象となります。
FBAは規制対象業種を3つのリストに整理しています。リスト1は新聞発行や農業、土地取引など、外国資本による事業が絶対的に禁止される9業種です。リスト2は武器製造やタイシルクの製糸など、国家の安全保障や伝統芸術に関わる13業種で、商務大臣の許可があれば行えますが、ハードルは極めて高いとされています。
そして日系企業にとって最も影響が大きいのがリスト3です。これはタイ企業の競争力がまだ十分でないとの理由から外国人の従事を制限する21業種で、小売業や卸売業、会計・法律サービス、建設業、観光業、飲食業などが含まれます。つまり一般的なサービス業の大半は、外資比率を49%以下に抑えるか、商務省事業開発局(DBD、Department of Business Development)局長の許可を得ない限り、タイ国内で自由に行うことができないということになります。
規制業種・禁止業種
リスト1(9業種)
- 新聞発行・ラジオ・テレビ放送事業
- 農業・果樹園
- 畜産
- 林業・木材加工(天然)
- 漁業(タイ海域・経済水域内)
- タイ薬草の抽出
- 骨董品(売買・競売)
- 仏像および僧鉢の製造・鋳造
- 土地取引
リスト2(13業種)
第1項(安全保障関連)
- 製造・販売・補修(銃・銃弾・火薬・爆発物およびそれらの部品、武器および戦闘用船・飛行機・車両、すべての戦争用備品・部品)
- 国内陸上・海上・航空運輸および国内航空事業
第2項(文化・工芸関連)
- 骨董品・民芸品販売
- 木彫品製造
- 養蚕・絹糸・絹織布・絹織物捺染
- タイ楽器製造
- 金銀製品・ニエロ細工・黒金象眼・漆器製造
- タイ文化・美術に属する食器製造
第3項(環境・天然資源関連)
- サトウキビからの精糖
- 塩田・塩土での製塩
- 岩塩からの製塩
- 爆破・砕石を含む鉱業
- 家具および調度品の木材加工
リスト3(21業種)
- 精米・製粉
- 漁業(養殖)
- 植林
- ベニア板・チップボード・ハードボード製造
- 石灰製造
- 会計サービス
- 法律サービス
- 建築設計サービス
- エンジニアリングサービス
- 建設業(ただし、外国人投資が5億バーツ以上で、特殊な技能を要する建設、その他の省令で規定された建設業を除く)
- 代理・仲介業(ただし、証券・農産物の先物取引、金融商品売買に関するサービス、同一グループ内の生産に必要な財取引、外国人資本1億バーツ以上の国際貿易仲介、その他省令で規定された代理・仲介業を除く)
- 競売(骨董品・美術品以外の国際間競売、その他省令で定める競売)
- 伝統的な国内農産物または法令で禁止されていない農産物の国内取引(ただし、農産物の先物取引を除く)
- 最低資本金1億バーツ未満または1店舗あたり最低資本金2000万バーツ未満の小売業
- 1店舗あたり最低資本金1億バーツ未満の卸売業
- 広告業
- ホテル業(マネージメントを除く)
- 観光業
- 飲食物販売
- 植物の繁殖・品種改良
- その他サービス業(証券業、銀行業、保険業、国家機関または政府機関に対するサービス提供、駐在員事務所、出張所など)
名義貸し(ノミニー)問題の背景
こうした規制を逃れるため、外国人が実質的に経営する会社が、タイ人の名義を借りて出資者や取締役を装う手法は「ノミニー(名義貸し)」と呼ばれ、長年問題視されてきました。タイ商務省の集計によると、2024年9月から2025年3月末までの半年余りで、名義貸しに関する摘発は852件にのぼり、被害総額は151億8800万バーツと見積もられています。特別捜査局(DSI、経済犯罪などの捜査を担当するタイの捜査機関)や警察が介入した大規模な摘発作戦も、サムイ島やパタヤ、プーケットといった観光地を中心に展開されてきました。
このため、裁判所や捜査当局は、株主名簿といった形式的な記録だけでなく、実際に誰が資金を出し、誰が経営の意思決定を行っていたかという実態を重視する姿勢を強めています。過去の摘発例では、タイ人株主の議決権が優先株(配当などで優先的な扱いを受ける一方、議決権には制限が加えられることがある株式)の発行によって実質的に制限されていたことや、配当が著しく低い水準に固定されていたことが、名義貸しと認定される根拠となりました。資本金の出所、議決権の所在、配当の水準という3点は、いずれも当局が重点的に確認するポイントといえます。
商務省による審査強化の経緯
DBDは2026年1月1日から、外国人と共同出資するタイ人株主に対し、過去3カ月分の銀行取引明細の提出を求める第一段階の措置を導入しました。外国人株主が存在する会社に加え、株主に外国人がいなくても署名権限を持つ外国人取締役がいる会社も対象となります。この措置の効果で、1月から3月の間だけでリスク対象企業が5割超減少したと報じられています。さらに2026年4月以降は、既存企業が株主変更や外国人役員の追加を行う際にも、全株主が実際に出資しており名義貸しに関与していないことを証明する手続きが厳格化されました。
8月からより厳格な新制度が施行
この流れを受け、2026年8月1日からは第二段階として、さらに厳格な新制度の施行が始まります。対象となるのは、外国人の出資比率が高くノミニーのリスクが大きいとされる16都県で、具体的にはバンコク、サムットプラカン、サムットサコン、ナコンパトム、ノンタブリ、パトゥムタニ、チョンブリ、ラヨーン、スラタニ、プーケット、クラビ、パンガー、プラチュアップキリカン、チェンマイ、チェンライ、メーホンソンの各都県です。DBDのプーンポン局長によると、ビジネス登記データや株主構成、財務諸表、会計事務所からの情報を分析した結果、調査が必要な企業は全国で約12万社に上るといいます。バンコクおよび近郊6県では極めてリスクの高い企業が7579社、リスクの高い企業が1752社確認されているほか、地方10県では極めてリスクの高い企業が1万8720社、リスクの高い企業が1万4118社見つかっています。また過去6カ月に新設された企業1万8246社のうち、3270社がノミニーによる株主保有を支援している疑いのあるリスクグループに分類されました。関与が疑われる外国人の国籍は日本、中国、英国、インド、フランス、シンガポール、ロシア、韓国など多岐にわたり、日系企業も無関係とはいえません。
新制度では、外国人と共同出資するタイ人株主および投資資金を受け取る取締役の双方に銀行明細の提出を求め、投資資金が適切な比率とタイミングで実際に払い込まれたかを照合します。財務データに矛盾があれば、登記官はその場で登記申請を却下します。まずタイ人100%の会社として登記し、その後段階的に取締役や株主を外国人へ切り替えていく手口も確認されており、こうした構造変更も監視対象となります。なお、この新措置は公聴会の手続きを経て正式に確定される予定で、実施時期や内容が変更となる可能性がある点には留意しておきたいところです。
プーンポン局長はさらに、8万人を超える会計士や9万人を超える弁護士・法律顧問に対しても、ノミニー登記の指南や支援をやめるよう警告しました。タイの法的文書はタイ語で作成されるため、外国人が単独で虚偽の登記手続きを進めることは事実上不可能であり、タイ人専門家の関与が問題の温床になってきたためです。実際、DBDが8県の会計事務所を対象に行った調査では、29の会計事務所と140人の会計士が、外国資本の入った2040社の株式を保有しており、その評価額は合計25億3000万バーツに上ることが判明しています。
ノミニーに関与した場合の法的リスクは小さくありません。FBA第36条・第37条により、名義貸しをしたタイ人および利益を得た外国人はいずれも3年以下の禁錮、または10万バーツ以上100万バーツ以下の罰金、もしくはその両方が科される可能性があります。裁判所が会社の解散を命じることもあり、有罪となった外国人は国外退去処分および再入国禁止の対象となる場合もあります。
適法にタイ進出する3つの方法
こうした規制のもとで、外国企業が適法にタイで事業を進めるための代表的な方法は3つあります。
1つ目はタイ側が51%以上、外国側が最大49%を保有する合弁会社を設立する方法で、株主間契約を結び、株主総会や取締役会の運営方法をあらかじめ定めておくことが経営の実効性を確保する鍵となります。
2つ目はタイ投資委員会(BOI、外国投資家に法人税や関税の免除といった優遇措置を与えるタイ政府機関)の奨励制度を活用する方法で、対象事業に該当すれば原則として外資100%での出資が可能になるうえ、通常は禁止されている土地保有も一定の範囲で認められます。
3つ目は外国人事業ライセンス(FBL)を個別に取得する方法ですが、実務上の取得難易度は非常に高いとされています。
一部で進む規制緩和
摘発強化が進む一方で、規制を緩める動きもあります。2026年5月12日、タイ内閣は特定のサービス業種についてFBLの申請を不要とする商務省の省令案・勅令案を原則承認しました。対象となるのは、電気通信サービス、財務センターサービス、証券取引法などに基づく国内保証サービス、デリバティブ関連サービス、農産物先物取引、企業グループ内部向けの管理業務・保証サービス、社内向け自動販売機設置スペースの賃貸、石油掘削サービスなど9業種です。
もっとも、この緩和によって所管当局の許可まで不要になるわけではありません。電気通信であれば国家放送通信委員会、財務センターであればタイ中央銀行といった、それぞれの所管当局による許可は引き続き必要となります。タイ政府は、市場を無条件に開放するものではなく、重複していた許可手続きを整理する規制改善だと説明しています。この改正案は2026年7月時点でまだ官報には掲載されておらず、年内の発効が見込まれています。

堅調推移の会社設立と好調な投資
摘発が強化される一方で、タイの会社設立自体は堅調に推移しています。DBDの発表によると、2026年6月の新規事業登録件数は7979件で、前月比12.14%増、前年同月比13.61%増となりました。2026年上半期の累計新規設立件数は4万4773件で、前年同期比2.13%増です。登録資本金は6月が152億3100万バーツで前年同月比15.91%減となりましたが、投資意欲自体は底堅いといえます。一方、6月の廃業登録件数は1760件(前年同月比19.89%増)、上半期累計では7024件(前年同期比12.49%増)に達しており、撤退する企業も増加傾向にあります。
また、外国人によるタイ投資も拡大しています。FBAに基づく2026年上半期の投資許可件数は640件で前年同期比27%増、投資総額は1876億1400万バーツで同68%増となりました。国・地域別では中国が110件(投資額354億7900万バーツ)、米国が107件(同60億4300万バーツ)と件数上位を占めましたが、投資額では日本が87件・446億6200万バーツとなり、件数では中国・米国に次ぐ3位ながら、投資額では両国を上回る規模となっています。このほかシンガポールが83件(378億6700万バーツ)、香港が59件(130億8800万バーツ)で続きます。東部経済回廊(EEC)への投資は199件で全体の31%、投資額は837億7900万バーツで全体の45%を占め、うち日本からの投資は28件、223億8600万バーツでした。
日系企業が点検すべき点
タイで事業を行う、あるいは進出を検討する日本企業にとって重要なのは、自社の出資構造や合弁先の実態がノミニーとみなされるリスクを抱えていないかを今一度点検することです。特に出資比率が40%台後半に近い合弁形態や、タイ人パートナーの出資資金の出所が不透明なケースは、8月からの新制度で登記を却下されたり、後日の調査対象となったりする可能性があります。

