タイ商務省事業開発局(DBD)は2026年5月12日、1999年に施行された外国人事業法(Foreign Business Act、以下FBA)の附属リストから9業種を除外する案を閣議に提出し、原則承認を得ました。今回の改正は、外資規制の大幅な緩和ではなく、重複した許認可手続きを一本化することを目的としており、許可取得にかかる時間とコストの削減につながると期待されています。
外国人事業法とは何か、なぜ重要なのか
外国人事業法(FBA)は、外資比率(外国人・外国法人が保有する株式の割合)が50%以上の企業を「外国企業」と定義し、附属リストに列挙された業種への参入に際して、商務省DBDへの許可申請を義務づけてきた法律です。附属リストは規制の厳しい順に第1種から第3種まで分類されており、第1種は外国人の参入が原則禁止、第2種は内閣の承認が必要、そして今回の対象となる第3種は「タイ人がまだ十分な競争力を持つには至っていない業種」として、DBDへの外国人事業ライセンス(FBL)申請が必要とされてきたサービス業種です。
従来、この第3種のFBL取得には申請から許可まで3〜4カ月の審査期間が必要で、経済的必要性の証明、知識移転、地元雇用に関する書類提出も求められてきました。外国企業にとっては時間的にも費用的にも大きな負担であり、日系企業を含む在タイ外資系企業から長年、改善が求められてきました。
今回の措置についてDBDが強調するのは「外資の自由化ではなく、規制の重複排除が目的」という点です。そのため、対象となる9業種の外国人投資家は、引き続き業種別の監督機関への許可申請が必要となります。例えば、通信事業は国家放送通信委員会(NBTC)、資金管理センターや資産を担保とする金融サービスはタイ中央銀行(BOT)、証券・先物取引関連は証券取引委員会(SEC)、石油掘削はエネルギー省がそれぞれの窓口です。今回変わるのは、これらの専門監督機関への申請に加えてDBDへの申請も必要だった「二重申請」が解消される点であり、許認可プロセスが実質的に一元化されます。
対象となる9業種の内訳
今回除外が提案された9業種は、DBDによって3つのグループに整理されています。
第1グループは「専門監督機関がすでに存在する業種」で、5業種が含まれます。具体的には、❶1種類の通信サービスライセンスに限定した電気通信サービス、❷資金管理センター業務・有価証券、❸先物を担保とする貸付、❹先物取引の代理・助言・資金管理サービス(2003年先物取引法適用外のもの)、❺農産物の先物取引センターでの現物受け渡し売買です。これらはすでに別の専門規制機関の管轄下にあるため、DBDへの申請が重複しているとみなされていました。
第2グループは「グループ内専用サービス」の2業種です。❶同一企業グループ内向けの業務管理・人事・情報技術(IT)サービス、❷国内グループ会社向けの債務保証サービスが対象となります。タイに複数の現地法人を持つ大企業グループにとって、グループ内でのサービス提供がFBAの適用対象となっていた点は、長年の実務上の課題でした。
第3グループは「その他」の2業種で、❶金融機器・自動販売機設置のための敷地部分の貸付(主に自社従業員向け)、❷石油掘削サービス(石油採掘権者向け専用)です。
今後の手続きですが、9業種のうち8業種は省令案として、農産物の先物取引センターに関する1業種のみは勅令案として提出されます。省令と勅令では国務院を経由する審査プロセスが異なるため、この区分は最終的な施行時期にも影響する可能性があります。
FBA改正の経緯と今後の見通し
今回の閣議決定は、一連のFBA近代化の流れによるものです。FBAは1999年の施行以来、グループ会社間での一定のサービス提供を規制対象外とした2019年省令改正など小幅な見直しを積み重ねてきましたが、規制対象業種を実質的に開放する抜本改正はほぼ行われてきませんでした。こうした状況を踏まえ、タイ政府は2025年4月の閣議でFBAの大枠改正を原則承認しており、今回の9業種除外はその具体的な第一歩にあたります。
DBDは2026年4月30日に締め切ったパブリックコメント(一般からの意見公募)の結果も反映させたうえで、今回の省令・勅令案を確定させました。今後の手続きとしては、国務院による法律審査、閣議での最終承認、官報への掲載という3段階が残っており、実際に法的効力を持つまでには数週間から数カ月を要する見通しです。官報への掲載前は法的拘束力が生じないため、進捗状況の継続的な確認が欠かせません。
今回の規制改革は、タイが直面するFDI(外国直接投資)獲得競争への対応という側面も持っています。米国による追加関税措置を契機に、グローバルなサプライチェーン(製品の調達・製造・物流のつながり)の再編が急速に進むなか、タイはベトナムやインドネシアと激しい投資誘致競争を繰り広げています。タイ投資委員会(BOI)が2026年第1四半期に受け付けた投資申請額は1兆バーツを超え、前年同期比2.4倍に増加しました。業種別ではデジタル分野が最大で、データセンターおよびクラウドサービス向けが申請額の大部分を占め、日本からの投資はデジタル・製造・エネルギー分野に集中しており、タイを生産・IT拠点として位置づける動きが改めて確認されています。こうした大型案件の増加を背景に、投資を受け入れる側の規制環境整備が、いっそう重要性を増している状況です。
省令・行政規則7000件超を撤廃へ
FBA改正と並行し、タイ政府は5月18日、省令・政令レベルの事業関連規制7000件超を大幅に撤廃・簡素化する方針も表明しました。政府報道官のラチャダ氏は「本来、事業を導くはずだった規制が、実態としてはコストになってしまっている」と述べ、管理型の官僚主義から事業を促進する国家へと政策を転換する姿勢を明確にしています。この改革には、複数の許認可を一本化する「スーパーライセンス」制度の導入も検討されており、複数の省庁をたらい回しにされてきた外資企業の負担を根本から見直す内容となっています。
タイはこれまで膨大な数の法律と副次規制を抱え、外資企業が事業許可を取得するにあたって複数の省庁間で手続きを繰り返すケースが多く、業界団体から長年改善が求められてきました。タイ工業連盟(FTI)の調査では、許認可申請の際に賄賂要求に直面した企業の割合が6割を超えており、規制の複雑さと汚職が表裏一体となって企業の投資意欲を削いできた経緯があります。
FBAの9業種除外と省令・行政規則の大規模撤廃を同時並行で進めることで、タイは投資環境の抜本改善を対外的に示そうとしています。タイへの進出を検討中、または現地での事業拡張を計画中の日系企業にとっても、許認可手続きや事業コストの削減に直結するこれら一連の改革は、引き続き注視すべき動きといえます。ただし、業種別規制それ自体は引き続き適用されるため、実務上の手続きへの影響は業種ごとに丁寧な精査が求められます。官報への掲載をもって初めて法的効力が生じる点も、あわせて念頭に置く必要があります。

