「ほうれんそう」は双方向コニュニケーション。浸透させるうえで大切なのは風通しのいい職場環境。

在タイ日系企業で行われているタイ人従業員教育で必ず取り上げられるのが「ほうれんそう(報連相)」です。日本人ビジネスパーソンの間では一般常識レベルの言葉となっていますが、「ほう」は「報告」で、タスクの命令者に進捗状況を報告すること。「れん」は「連絡」で、タスクの関係者に進捗状況を連絡すること。そして、「そう」は「相談」で、判断に迷う場合など意見を聞くため上司に相談することーとなります。

在タイ日系企業への就職を希望するタイ人に対するビジネス講座でも、「ほうれんそう」はタイ人講師が必ず説明するテーマです。あるタイ人講師は、「タイ人は思い込みで仕事を進めていき、にっちもさっちもいかなくなってようやく上司に相談する。そのため、修正不可能な状況になることさえある」として、「ほうれんそう」の重要性を説いていました。

ところで、この「ほうれんそう」というキーワードですが、山種証券(現SMBC日興証券)の山崎富治社長(当時)の著書『ほうれんそうが会社を強くする』から来ているとされます。この本の中で、山崎社長は「ほうれんそう」を「会社を生き生きとさせる原動力」と表現しています。つまり、風通しの良い職場環境を作るためのツールとして紹介しているのです。「上下、左右にこだわらない腹を割った相談」が大切とも指摘。そのため、「ほうれんそう」は部下から上司に対してのみ行われるものでなく、上司から部下へも含む双方向のものであると山崎氏は強調します。部下から提案・提言を受けたら、今後は上司が改善案を提示して意見を聞くという流れがあって、初めて「ほうれんそう」が完結するとしています。

このように「ほうれんそう」は社内のコミュニケーションを活性化する手法であるため、複数の人気ビジネスサイトで提言されているのが、「ほうれんそう」ができないといって部下を批判する前に、上司が自身の態度・言動を見直す必要があるということです。「ほうれんそう」を行っている部下の話はどんなに忙しくても真剣に聞き、最後は必ず謝意を示すことが必要不可欠。上司のこの姿勢がないと、部下も「ほうれんそう」に躊躇するようになります。ここで、「ほうれんそう」のできない者は仕事もできない、と注意されようものなら、社内の人間関係はさらに悪化し、部下の自発性も失われ、山崎氏の思いとはまったく逆なものとなってしまいそうです。

「ほうれんそう」で最も大切なのは、いい報告ではなく、被害を最小限に食い止めるためにも、悪い報告を早急に行うことです。在タイ日系企業への就職を希望するタイ人のための説明会では、日系企業とタイ地場企業の違いとして、「タイ企業はミスをした社員を罰するため、社員は自分のミスを隠そうとする。しかし、日系企業はミスをしても、すぐに報告し、フォローに尽力すれば、社員を罰することはない」と説明していました。この点は「ほうれんそう」の土台ともなる部分であり、是非、社員全体に周知させておくべき内容でもあります。

「ほうれんそう」は部下の教育のためにあるのではなく、職場改革の手法であるともいえそうです。

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